コインランドリーの夜に

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5月10日 土曜日
【ニュージーランド】 インバカーゴ ~ テアナウ




「フミ、これを持ってきな。サンドイッチとフルーツ。どこかでランチにしな。あとこれは俺のTシャツだ。ほらここにマナって書いてるだろ?マオリのTシャツさ!!ははははは!!」



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朝起きてキッチンに行くとマナおじさんがすでに俺の出発のためにいろいろと準備してくれていた。

不器用な男手でサンドイッチを作ってくれたことがとても嬉しかった。








2人でレーズン入りのシリアルを食べる。
ミルクはないので、お湯をかけ、その上にクリームをかける。
混ぜればミルクみたいなもんだ。


あの絶望的な夜にマナおじさんが偶然通りかからなければ、どんなことになっていたのか。

警戒してうちに来いという誘いを断っていたらどんなことになっていたか。

出会いは本当に思いもよらないところで現れて、どんな形に変化していくか想像もつかない。

尻込みしていたら、面白いことはどんどん逃げていくばかりだよな。


「この家も5年後には綺麗に直して暖かくするつもりだよ。だからまたいつでも戻ってきなよ!!」


マナおじさんは陽気に笑った。
俺がまたここに戻ってくると信じているのか、いないのか。
浅黒い肌に浮かぶ影が、とても寂しげだった。










教会に行くというマナおじさんの車に荷物を積み込んで家を出発した。

途中で一緒に行くというお友達を乗せ、インバカーゴの町外れまで送ってくれた。

車を降りてマナおじさんとお互いの鼻先をチョンと合わせた。
親愛のマオリの挨拶。

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「フミ、元気でやりなよ。また戻ってきなよ。」


「その時は私にも会いに来てくれよ、フフフフ………」



不気味に笑うマナおじさんのお友達。



えー…………ものすごい悪い言い方になるんですが………

ものすごい悪い言い方で…………


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お友達が悪魔にしか見えない(´Д` )


いや、本当はとても優しいおじさんですけどね。
その黒いフードはやめたほうがいいと思う…………













マナおじさんの車が遠くに見えなくなった。

あまりにも寒い風が曇り空の下を吹きすさび、身体中が震えてくる。
でも心は充分に温まっている。

目の前に伸びる一本道。
さぁ、次に進むぞ。

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「おー、どこまで行くんだー?」


タバコを吸い終わる前に次の目的地であるテアナウ行きの車が止まった。










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「お前はギターを弾くんだな。俺も音楽やってるんだ。俺のバンドのCD聞くかい?」


テアナウに仕事で向かうこのおじさんもマオリの人で、キョラと挨拶するとニコリと笑ってくれた。

ギタリストであるおじさんのバンドのCDはロックミュージックにバグパイプをフューチャーしたとてもイカしたものだった。
ボーカルが歌うのは英語と、そしてマオリの言葉。

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そんな音楽を聴きながらのドライブ。
気がつくと窓の外に広がる景色が一変した。


牧場が広がっているのは今までの東海岸と同じなのだが、辺りに大きな丘や山がそびえ始めた。
まるで平地が多いフィンランドからノルウェーに入って急に自然が険しい表情を見せたあの時の変化に似ている。

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目的地であるテアナウは、地図で見ると西海岸に取り残されたようにポツンと存在する小さな町。

陸地に無数のひび割れが入り込み、うねうねと大小の湖が差し込まれたような、地図で見るだけでもかなり厳しそうな自然が広がるエリアにある。

ついにニュージーランドのフィヨルド地帯に攻め込むんだ。

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ていうか羊おりすぎ。












「ホラ、俺のCD。またよかったら聞いてくれ。じゃあ気をつけてな。キョラ。」

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おじさんにCDをもらって車を降りた。

朝までの曇天がいつの間にか雲ひとつない快晴の空に変わっていた。

テアナウの町はとても小ぢんまりとしたもので、緑豊かな道路沿いにポツポツと家が並び、いくつかのバーやレストランがある。

そのどれもが観光客向けのものであるのがすぐに分かる。
どうやらこのテアナウはフィヨルド観光に向けての拠点となる町のようだ。


それもそのはず。
見上げるとそこにはあまりにも雄大な山々がそびえ、山頂には白く雪がかぶり、清冽な空気が真っ青な空から降り注いでいる。

通りをポツポツと歩いている人たちはみなカッコいいアウトドアファッションに身を包み、ハイキングを楽しみに来た観光客ばかりだ。







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暖かい陽気の中、ベンチに座ってマナおじさんにもらったビニール袋を開けた。

そこにはサンドイッチとバナナとリンゴ、そしてゆうべマナおじさんが作ってくれた魚のココナッツミルクあえが入っていた。

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ありがとうとつぶやいてサンドイッチにかじりつく。




そしてゆうべマナおじさんが上手く料理出来なかったと悔しがっていた魚のココナッツミルクあえを食べた。
昨日から味つけが変わっており、とても美味しくなっていた。


そしてふと気付いた。


魚の切り身が小さくカットされていた。すべてが一口サイズでとても食べやすい。
なぜそんなことをしたのか、理由はすぐにピンときた。

ゆうべ食べたとき、ひとつひとつが大きくて俺はフォークで半分に切ったり、かじってふた口に分けたりして食べていた。

それをマナおじさんが見ていたとしか思えない。

わざわざタッパーの中にある魚の切り身を全て小さくカットするにはかなりの手間がかかったはず。

ベンチの上でマナおじさんの優しさに涙が出そうになった。


旅立つ俺にここまでしてくれるなんて………
マナおじさん、本当にありがとう。











もう最高に気合いが入り、天気も最高に晴れ渡っている。

時間は13時。

今日目指すのはこのテアナウからフィヨルドの山が切り裂く谷間をひたすら山奥へと突き進んだ最果てにある湖、ミルフォードサウンド。

ニュージーランドのフィヨルドといえば、このミルフォードサウンドかクイーンズタウンのどちらかと言うほど有名な場所だ。

もう少し北のところにあるクイーンズタウンはアクセスが簡単なことで一大観光地として世界中から観光客がやってくる場所だけど、ミルフォードサウンドはそこまでメジャーな場所ではない。
テアナウの町の小ささと人の少なさでそれは分かる。


でもハードな道のりの先にある場所だからこそ、手つかずの絶景が待っているはず。

先日ヒッチハイクで乗せてくれた山マニアの兄さんも、ミルフォードサウンドは人生が変わる場所だと言っていた。

ニュージーランドに来た目的は美しいフィヨルドを見ること。
念願だった場所についに行く。



テアナウからミルフォードサウンドまでは何もない山道をひたすら1時間半ほど突き進んだ先にある。

どんな夢のような景色が待ち受けているのか。

気合いを入れて親指を立てた。

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最高の天気で太陽が気持ちよく、ほがらかな気持ちで車が止まるのを待ち続ける。

いやー、こんなにいい天気だと心にも余裕が出る。

天気予報は雨続きだったのに、フィヨルドにアタックする日にこんなに晴れてくれるなんて俺もついてるぜ。





…………まぁ車がほとんど通らないけど………



うん、そりゃこの道はどこかへ通り抜ける道ではなく、ミルフォードサウンドに行く車しか通らない。

そして今はローシーズン。観光客が減る時期。

車は本当にまばらにしか通らないし、ほとんどが観光バスや乗り合いのシャトルバン。

止まってくれるはずもないが、まぁまだ14時。
そのうち止まるだろうと本を読みながら車が来たら親指を立て、地面に座って本を読み、車が来たらまた立ち上がって親指を立てた。



時間は15時を過ぎ、あっという間に16時になった。

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おいおい、どうしたよ。
この数日、ヒッチハイクはタバコ1本の時間で止まるっていう具合だったのに、いきなりまったく止まらなくなってしまった。

焦りがじわじわと心を支配していく。道路の向こうには神秘的なまでに白い雪山が連なり、果てしないロマンの入り口のように待ち構えているというのに、全く車は止まらない。


もどかしさを無視するように太陽はどんどん傾いていき、平屋の建物の影が道路に伸びてきた。





ミルフォードサウンドに行き、切り立つ山の足元の湖畔で眠る。
この天気ならばおそらく最高の星空を見ることが出来るはず。

フィヨルドと星。
ニュージーランドの目的のふたつを一気にクリアーできる最高の条件が整っているというのに、車は止まらず、そして17時を過ぎると肝心の車が道路から消えた。


それでも諦めきれずに18時まで粘り続け、夕日が沈み、寒さが骨の芯を冷やし始めた頃、読んでいた本の最後のページをめくった。


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なんてこった………

完全に計算違いだ…………


こんな最高の天気の日に行けなかった………

ガックリと肩を落として町に戻った。










町と言っても本当に小さな集落くらいのもので、マクドナルドなんてものはない。
あるのは観光客向けの高いレストラン。
一応フィッシュ&チップスのファストフード店もあるが、こんな山奥のハイキング基地なので値段がものすごく高い。

1番安いフィッシュ&チップスが12ドルとか。

仕方なくスーパーマーケットに行き、食パンと缶詰めを買った。







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夜になると気温がシャレにならないところまで下がってきた。
そりゃそうだ、目の前の山には雪がかぶっている。

マクドナルドがあれば逃げ込めるが、どこにも落ち着ける場所がない。

あたりをウロウロと歩いてみても、こんな金のないバッグパッカーが腰を下ろせる暖かい場所なんてどこにもない。

あてもなく歩いた湖畔の道はとても幻想的で冷たい美しさをたたえていた。


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逃げ込んだのはコインランドリーだった。

photo:21



長期滞在の人たち用にコインランドリーがあり、無人だったので中で過ごすことができた。

しかしその避難小屋も夜の20時になると管理人さんがやってきて閉め切られてしまった。

またもや極寒の夜の中に放り出されてしまい、白い息を吐きながら歩き回った。







薄いもやが立ち込めるほどにピンと張り詰めた空気の中に、またも夜の匂いがする。

土の匂いのような、アスファルトの匂いのような、何かを燃やす匂いのような。

この匂いはいつも孤独な夜にのみやってくるような気がする。


月がこうこうと輝いていて、その強い光のせいで星があまり見えない。

山の稜線が夜に浮かび上がり、その底にポツリと取り残されたような感じがする。








向こうの方に明かりが見えた。

24時間のコインランドリーだった。

ありがたい、と中に入るとコンセントがあり、バッテリーの充電をしながら寝袋にくるまった。

こんなコインランドリーの中で寝ていたらお客さん驚くだろうから、横になるのはよそうと思いながらプラスチックの椅子に座る。

鼻が冷たくて頭まで寝袋をかぶり、中で呼吸をすると暖かい吐息が中に充満する。

天気予報で見た気温は1℃か2℃くらいかな。
マイナスではないと思う。
これならまだ大丈夫だ。


寝袋の中で暖かい息を吐き続けていたらいつの間にか眠りに落ちた。








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