パパはシャーマン

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2月5日 水曜日
【エクアドル】 アンバト ~ テナ





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南米を旅しているとアルゼンチン人のバッグパッカーによく会う。

フレンドリーですぐ仲良くなれて、どこから来てるの?と聞くとたいがいアルゼンチン人って具合。

面白いくらい高確率。

でもブラジルとかペルーのバッグパッカーには会ったことないんだよなぁ。

経済的にはそれほど大した違いはないと思うんだけど。



「どうしてアルゼンチン人はみんな旅行するの?」


「俺たちアルゼンチン人はオープンマインドなんだよ。知らないところに行くのが好きだし人と会うのが好きだし、なによりコミュニケーションをするのが大好きなんだよ。」


南米の大国、アルゼンチン。
訪れる前からすでに大好きになってしまっている。

こんなにいい人たちが多い国、きっとものすごくたくさんの出会いと楽しい日々が待ってるはず。


フォルクローレ、タンゴ、バーベキュー、そして広大な国土に散らばるたくさんの町や観光地。


じっくり時間をかけて回りたいところなのに、すでに航空券はとってしまっている。
俺がアルゼンチンに滞在できるのは6日だけ。

しかしそれもまた旅か。

その6日間でアルゼンチン人のフレンドリーさの秘密を垣間見られたらいいな。



「マジでフミはアルゼンチン大好きになるはずだよ。」


「アサドは本当に美味しいわよ!!バーベキューだけど、アサドはアサドなの!!世界でアサドはアルゼンチンだけよ!!」




そんな話をしながら荷物をまとめる。
今日、ついにインディアンのリーナが待つテナに戻る。
昨日見つけだしたサンペドロサボテンを持って。

長い道のりだったけどやっとここまで来たぞ。

泊めてくれたシンディとサラは仕事に出かけているので、置き手紙をテーブルに残して家を出た。

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家の前からバスに乗ってまずはターミナルへ。

そこから80セントのバスで1時間先のバニョスへ。

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雨が朝から降り続いており、切り立った断崖絶壁が霧に煙っている。

先日大噴火をしたあのトゥンムラワ山も濃い雲に隠れている。

こんな雨の中大きな荷物を持って動きたくないけど、その陰鬱な空がこれから向かうサンペドロの神秘的な怪しさを引き立たせている。

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バニョスからはヒッチハイクに切り替え、車を止めやすい道路際に歩いていく。

歩きながらヘロニモがテキトーに親指を立てる。

そしてマジで2秒で車が止まる。


ぬおお……エクアドルのヒッチハイク、マジで楽勝だ。







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ピシッとした綺麗な身なりの兄さんの快適なドライブであっという間に中間地点のプヨまでやってきた。

あとここからは1時間半の距離だ。




しかしここに来て雨が激しさを増してきて、とても外に立っていられるような状況じゃなくなってきた。

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それでもなんとか俺の野宿マットを広げて3人でそれを傘代わりにして寄り添い、道路際で親指を立てる。

こんなど田舎の片隅で雨に濡れながらヒッチハイクなんて状況が面白すぎて、車は止まらないけどそれもまたいいなと思えた。

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「フミ、ペルーではご飯を最後まで食べないで、少し残して地面に捨てるんだぜ。」


「なんでそんなことするの?」


「パチャママっていってさ、南米の人は大地を信仰してるんだ。パチャママに食べ物を捧げるんだよ。」




あまりに雨が激しくなってきたので、もうこりゃ無理だとやってきたテナ行きのバスに乗り込んだ。
1時間半の距離で2.5ドルは高いけれど仕方ない。











テナに到着したころにはすでに日も沈み、ジャングルに囲まれた町はラッシュアワーで賑わっていた。

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路上にはたくさんの屋台が並んでおり、お肉を焼く煙がもくもくと立ち上って食欲を誘う匂いが漂っている。


でも今は肉を食べることはできない。
サンペドロまでは肉もビールもおあずけだ。

スーパーマーケットでパスタと野菜を買い込み、タクシーに乗ってリーナの家に向かった。

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タクシーはアスファルトの道からガタガタの未舗装道路へ曲がる。

暗闇の中、ヘッドライトが鬱蒼としげった密林を照らし出す。

そしてしばらくしてひとつの灯りが見えてくる。


リーナの家だ。








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タクシーを降りて、足元も見えないような草の上を歩いていく。

家には何人かの人たちがいた。
リーナの家族、そして新顔のバッグパッカーが3人。
スペイン人2人とアルゼンチン人1人。
3人とも若い女の子だ。

お決まりのバトンを持ってジャグリングをしながら旅しているみたい。



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リーナは今出かけているみたいで、ここにはいなかった。
でも家族のみんなはこんなバッグパッカーの訪問には慣れた様子で、笑顔でニコニコしている。

ボロボロの黒ずんだ鍋で淹れた紅茶を出してくれる。




「君はチーノかい?」


「パパ、彼は日本人のフミっていうのよ。歌を歌いながら旅してるの。」


リーナのお父さんがニコニコしながら話しかけてくれる。

たくましく体、黒髪、浅黒い肌に深いシワが刻まれている。
裸電球の淡い灯りの下なので、どこか不思議な迫力がある。


「ブエナスノーチェス、フミって言います。」


「そうかそうか、よく来たね。私たちはケチュアのインディアンなんだよ。」


「あ、えーっと、ヨパイチャイニ。」


「お!!君はケチュア語が喋れるのかい?」

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キトのバスの中で少しお話ししたケチュアのインディアンにありがとうって意味のケチュア語を教えてもらっていたのが役に立った。

優しい笑顔のパパがいろいろと話を聞かせてくれた。








エクアドルはインディアンの国だ。
スペイン人の支配からヒスパニックも生まれたが、このエクアドルには今も本当にたくさんの純血のインディアンが住んでいる。

そして彼らは現代社会に溶け込みながらも、自分たちの文化を守り続けている。


パパはこの地域のジャングルを切り拓き、家を作り、文明が大きく発展する戦後からの50年間を戦い抜いてきた人だ。

きっと様々な苦労があったはず。

その生きてきた証がシワとなって刻まれているよう。





そんなパパは俺たちが晩ご飯の料理を作っている間、ずっと懐中電灯を持って家の周りをグルグル回って木を拾い集めては焚き火にくべていた。


ずーっとやっている。
何をやってるのか聞いてみたら、なにやらジャングルの夜では火を絶やさずに燃やし続けることはとても重要な意味を持つらしく、眠っている間に火が燃えているとジャングルの中から良い精霊がやってきてくれるんだそう。


俺たち若者の中には加わらず、1人でずっと歩き回って火を起こしてくれているのは、俺たちが良い睡眠を得られるようにインディアンとしての最高のおもてなしをしてくれているんだと思った。


「フミ、パパって有名なシャーマンなのよ。アヤワスカを使うことができるインディアンなの。」


マリアンナが教えてくれた。





ま、マジか………
こんなところでアヤワスカのシャーマンに出会えるなんて………

もう完璧筋金入りの南米のインディアンってわけだ。

娘のリーナがサンペドロの作り方を知ってるのもうなづける。

子供のころから見てきたんだろうな。








晩ご飯を食べ、みんなで焚き火を囲んでカードゲームをした。

丸太を切ったイスにはインディアンの彫刻が施されている。

お酒はもちろん抜きで、お茶を飲みながら火の灯りに照らされながら。



虫の鳴き声が少しだけ聞こえる。

火が弾ける音。

思考がゆるやかになり、動物に近づいていく感覚。

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パパがケチュア語の言葉を教えてくれた。


「ユカカンタモナニ。言ってごらん。」



愛してるという意味の言葉だった。







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