メキシコのポップスターのライブへ

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10月9日 水曜日
【メキシコ】 メヒカリ





結局一睡もできなかった。

砂嵐と、トタン屋根のめくれ上がる音、それとたまに通る人の足音。


神経が敏感になっていて、少しの物音でも反応してしまう。







でもおかげでいいものも見られた。

雲が、昔見たお祭りのわたあめみたいに人工的な色に染められていた。

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目を疑うような色彩。

朝ってのはこんなに空を真っ赤にしてしまうものなんだな。

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どんなきつい状況でも、こんな思いがけないプレゼントがあるんだから、たまらないよな。










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結局夢から覚めることもなく、ここはどこまでいってもただのメキシコ。
やっぱりこのボロボロの町を進んでいかないといけない。

よし、行くか。

荷物に降り積もった砂をバタバタはたいて寝袋をたたみ、バッグをかついだ。





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夜はあんなに寒かったのに、日がでると焼けるような暑さになるのはここが砂漠の真ん中だからか。


ズリズリと砂が吹きだまったアスファルトの上をバッグを引きずりながら、Wi-Fiのあるお店に到着。

ある人にメールを送る。








ロサンゼルスのベニスビーチ。そこでお世話になったあのテレビディレクターのマックス。

彼が、これからメキシコならこの男に会っといた方がいいと引き合わせてくれたのが、メキシコの有名なギタリスト、リック。

トムクルーズ似の男前でとんでもなくギターが上手い非の打ち所がない男なのに、俺やカッピーたちのために朝ごはんを作ってくれたりギターの弦をくれたりした、めちゃくちゃ優しい男。


実はこの何にもないメヒカリなんて町にきたのはあのリックに会うためだった。


リックはメキシコシティーに住んでいるんだけど、年中コンサートのためにメキシコ国内だけでなく、アメリカ、南米、ヨーロッパと世界中を飛び回っている。


ちょうど今夜このメヒカリでショーがあるということで俺のことを招待してくれたのだ。


メールの返事が来る。


「ハイ!!フミ!!よく来てくれたね!!僕らは~~ってホテルに泊まってるから、そこに来てくれたらバンドメンバーと一緒に会場入りしよう。」


わざわざ住所やイベントのページのリンクを貼ってくれたりと丁寧なメール。

ほんと、リックはどこまでも優しい男だな。











さて、夜にリックのホテルに行くとして、日中はこの何にもない町で何をしよう。

決まってる、バスキングだ。


でも果たして稼げるのか?

昨日はスーパーマーケットでやったけど、人々の反応はとことん渋かった。稼ぎは180ペソ。14ドル。

スーパーでこれだからダウンタウンでやっても10ドルもいかないんじゃなかろうか?

いや、逆にもっといくかもしれない。

やってみなけりゃわかんないよな。




さーて、ダウンタウンに向かう市バスはどこから乗ればいいのかなー…………









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はい、全然わからない。

標識がない。




あれ、アラブ圏でさんざん悩まされたあのパターン。

バス停がなくて地元の人しか止まる場所を知らない秘密方式のあれ。


ゴミだらけの道路脇で人が立っている場所を見つけては、セントロ、セントロと身振り手振りで尋ねて回るしかない。

ブッブー!!とタクシーがクラクションを鳴らしながら俺の横に止まってくるが、メキシコの人からタクシーには危険だから無闇に乗ってはいけないと忠告されている。

まぁハナから乗るつもりはないが。





なんとかセントロ行きのバス停を見つけて待っていると、砂ぼこりを巻き上げながらボロボロのバスがやってきた。

さて、と乗り込もうとすると、バス、まだ乗ってないのにいきなり走り始めた。


「ちょ、ちょっとー!!!」


走って追いかける。寝不足で体がついてこないけど、一生懸命荷物を引きずって走る。
ドアを開けながら走ってるのでそこから運転手が見える。


「ちょ、止まってください!!止まってー!!」


横を向いて俺のことを見る運転手。

よかった、気づいてくれた。





ブーン!!





加速。






走り去るバス。







ほう?逃げやがりますか?

なんでだろうー、俺が荷物たくさん持ってるからかなー、それとも早漏だからかなー。


チクショウ!!

ポカーンとする俺の周りで何事もないかのように立っているバス待ちの人たち。


うんうん、こういうこともあるよね。
中米だもん。これくらいのことチクショウ!!!


ダメダメ、落ち着け、ここは日本人らしくつつましく、余裕を持って優雅にしてないとね。いくら強引に行けと言われても日本人として譲り合いの心を忘れてはいけないよね。

次にやってきたバスにエジプト人並みの勢いで飛び込んで11ペソ払って席確保オラァァア!!


え?荷物がでかいからもう11ペソ払えと?
そう来ますか?いやー、懐かしいですねー、アラブ思い出しますね!!

何もわからない子犬のような顔で怯えながら財布を取り出して、硬貨の数え方がわかりません、僕なんにもわかりません、そんな子犬から金をむしりとるんですか?血も涙もないんですかコノヤロウ?みたいなオーラを醸し出しますが、綺麗に11ペソ取られました。


通用しねぇ(´Д` )


ちなみに後で乗ったバスでは荷物代は取られませんでした。
運転手の当たりハズレですね。

まぁたしかにデカい荷物で3席分くらい取ってしまうのでこれは払わないといけないものですけどね。










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ズタボロのシート、開けっ放しのドアから砂ぼこりがブファアって吹き込んでくるバスでダウンタウン到着ってマジかこれええええええええ!!!!!!




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こ、怖え(´Д` )

ゾンビしか歩いてねぇ(´Д` )


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まず服の汚れかたが異常。
80パーセントくらいの人が茶色く汚れた服を着ている。

お金持ってそうな人は皆無。


あなたのお腹を見事壊してご覧にいれましょうと言わんばかりの屋台が路面に並び、お店も潰れてるのかやってるのかよくわかんないようなとこばかり。

野良犬多すぎ、砂ぼこり舞いすぎ、首短すぎ。
あ、ということは優しい。

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そんなヤバイ雰囲気バリバリなんだけど、一応やれる場所を探して歩き回った。

こんな寂れきった町なのに、やたらと娼婦が多い。

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体のラインを出した服で町角に立っており、廃墟みたいなホテルの階段をのぞいてみると化粧の濃い女たちが座り込んでいる。


その前では年季の入った椅子で靴磨きの爺さんが暇そうにアクビしている。

走ってる車は塗装のはげた今にも爆発しそうなものばかり。

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こ、こいつはヘビーだ………

やっぱりバハカリフォルニアはまだアメリカだったんだ。

ここからが本当のメキシコ。

みんな貧しい中で知恵を絞って必死に生きようとしている。






ドンドン歌う気力が失せていく。

道路の向こう側で、ダンボールに駄菓子を入れて売っているおばちゃんのお菓子が売れた。

するとおばちゃんはその小銭を握った手で十字を切ってポケットに入れた。




うう………いかん。
こりゃいかんぞ………



俺だって稼がないと生きていけないんだ。
日本に帰れないんだ。

でも、ここにいる人たちは今日を生きている。今日の飯のために金を稼いでいる。

明日のために、1ヶ月先のために金を稼いでいる俺とはまったく違う。



はっきり言って貧しさとか、そんなもん知ったこっちゃねぇ。
幸せの価値観なんて人それぞれだ。

アフリカの子供たちはハエにたかられながら家族と平和に生きることに幸せを思ってるかもしれない。
彼らに可哀想!って自分たちの価値観でしかない援助をすることが人道的だとは思わない。

世間知らずな考えなんだろうけど、今の俺はそう思う。


俺が今ここで歌っても、彼らはきっと笑顔で1ペソをくれるだろう。

笑顔になってもらえたら、それでいいやんか。


でも、やっぱり気力はドンドン失せていった。










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結局歌えないまま町を歩き回って、バスに乗った。

こんなんじゃいかん。
これからもっともっとヘビーな光景が繰り広げられる国に行くんだ。
こんなんで怖じ気づいてたら歌の意味なんてない。

やらないと。歌は万国共通なんだ。
金の稼ぎは抜きにしても、出会いのためにやっていかないとな。









リックのホテルに行く前に腹ごしらえ。

このメヒカリで唯一名物というものがある。

それはなんと中華料理。
かつて大量の中国人がアメリカ国境を越えられずにこのメヒカリの地に住みついたらしく、今でもこんな小さな町なのに無数の中華料理店が存在する。

ほんと中国人はどこにでもいるな。
たくましい。


そしてメキシコ料理ですぐにお腹を壊してしまう俺にはありがたい限り。

しかもこれ、この巨大なプレートでなんと25ペソ、200円。
アメリカだったら6ドルはする。

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思いっきりかきこんだ。












それからリックのホテルへ。

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おお………これか………
いいとこ泊まってるんだな。



ロビーでリックを呼び出してもらうと、すぐに彼はやってきた。


「フミー!!元気にしてたかい?メキシコはどうだい?さ、こっちだ。あ!髪切ったんだね!!」



相変わらずニコニコ笑顔のリック。



部屋の中にはもう1人ドラマーの人がいた。


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どうやら今日のショーはアーシャって言うメキシコの2人組の女の子ユニットのバックバンドとしてのツアーらしく、明日にはまた飛行機に乗り、違う町でライブなんだそう。


「ま、ゆっくりしててよ、ショーは0時からだから。23時くらいにここを出よう。」

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ライブ前だというのに、ホテルの部屋で寝っ転がってテレビを見ているこの余裕。
ドラマーさんは完全に爆睡している。

すげーな。俺だったら緊張しながら会場の隅で震えてるのに。










23時になり、ノソノソとホテルのエントランスへ。

誰か友達が迎えに来てるのかなー?と思っていたら、そこには大きなバンが待ち構えていた。

それはもう完全にタレントを送迎する窓のないバンだった。


「さ、乗って乗って。あ、彼はギタリスト、彼はキーボードだよ。」


バンドメンバーに紹介してくれるリック。
みんな音楽やってますって雰囲気のカッコイイ人たちで、にこやかで、知らないアジア人がどうしてここにいるのかなんて誰も聞いてこない。


「ヘイヘーイ、旅してるのかい。よし、メキシコシティーに来たら連絡してくれ。うちのスタジオで遊ぼうぜ。」




そんななごやかな会話をしながら、バンは郊外にあるテーマパークに到着した。
遊園地みたいだ。

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裏口から入り、控え室へ。
そこにはプロデューサーや音響さんたちがおり、にこやかに挨拶して回る。

どうやらメインのアーシャの2人は別の楽屋みたい。

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「ヘイ、フミ、ビールでいいかい?サンドイッチも食べな。」


この謎のアジア人に色々とおもてなしをしてくれるみんな。
うおぉ………俺全然部外者なのに………

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リラックスしてるみんなを残して、俺は1人で会場へ。

そこは円型の闘技場みたいになっており、今まさに中央では闘鶏をやっていた。

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2羽の鶏がコケー!!と戦っており、司会者がマイクで勇ましく実況をしている。

プラスチックの椅子も古びており、みんなタバコを吸ったりビールを飲みながらの歓声を上げている。

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おー、こりゃあローカルな場所だ。
昭和の空気が漂っている。











闘鶏が終わると、その中央のステージにセッティングが行われる。

うー、楽しみだな。
こんな臨場感のあるライブ、久しぶりだ。







照明が落ちる。

そしてリックたちが出てきて、爆音のライブが始まった。

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ステージの周りからスモークの柱が吹き出し、照明が乱れ飛び、観客たちの興奮がドンドン上がっていく。



そこに2人の可愛らしい女の子が踊り込んできた。


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「メヒカリイエエエエエ!!!!」




ギャアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!







な、な、な、なんだあああ!!!!

もう観客全員狂ったように叫び声をあげて、手を振っている!!興奮しすぎて頭をおさえて泣いてる子もいる!!


えええ?!そ、そんな有名な人たちなの!?

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売り子多すぎて邪魔!!




ノリノリなナンバーをカッコよく歌い上げるアーシャの2人。
歌の技術はもちろん、ダンスもパフォーマンスも1流だ。

リックたちの演奏もイカしてるし、スモークや紙吹雪や照明などの演出もめちゃくちゃしっかりしてて、興奮をあおる。


うわぁ、こりゃいいショーだ。







ん?あれ?

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あれ?





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コルセット?

プロ根性。





後から聞いたんだけど、このアーシャって2人。結構な人気ユニットみたい。
いやー、メキシコのポップス、レベル高えわ。

いいもん見させてもらった。










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「ムチョスグラシアース!!メヒカリーーーー!!!!」



ライブが終わるとファンとの交流。
ていうかリックもめちゃくちゃファンに囲まれていた。

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なんだよ、リックって結構有名人なんだな。


「フミ、どの子がいい?ホテルに連れて行くの。」


「え!?……じゃ、じゃああの日焼けした肌でおっぱいの大きい……」


「ハハハ、冗談だよ。」





ま、まったくー、冗談キツイんだからリックったらー。


おっぱい…………

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てなわけでショーが終わるとすぐにホテルに戻る。

ホテルの前で待っていたファンたちにさらに写真やサインをお願いされながら部屋に戻った。


「フミ、俺たちは明日朝6時にここを出て飛行機に乗るから、気にしないでチェックアウトまでゆっくりしていてな。それからメキシコシティーに着いたらウチに来てくれな。」



時間はすでに3時前。ほとんど寝ることはできない。

ショーが終わり、打ち上げなんかをする間もなくろくに寝ずに次の街か。
めちゃハードだ。








今日はいいもの見せてもらった。
パフォーマンス、音楽だけでなく視覚でも楽しんでもらうってこと。
見せ方の大事さ。
そのステージングってのは世界共通のものだよな。


そうだ、世界共通でみんな楽しめるものなんだよな。
ダウンタウンで見た貧しい光景に凹んでる場合じゃねぇよ。

稼げるかではなく、楽しんでもらわないと。
それが先決だよな。



ゆうべ一睡もしてなかった体は数秒で眠りに落ちた。







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