白人世界、最後の夜

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5月19日 日曜日
【ニュージーランド】 オークランド





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ニュージーランド。そしてオセアニア。そして白人社会で見る最後の朝日になるのかなと思った。


寝袋からのぞいた外界をのぞくと、そこにはあまりにも美しい曙の色彩が夜を壊し始めていた。

黒から群青、青、白、オレンジ、そして赤へのグラデーションが太平洋の空を染め上げていた。




やがて水平線の向こうから太陽がのぼりはじめ、光線を放ち、深く沈んだ夜が吹き払われて世界の全てがあらわになっていく。

綺麗なものも、汚いものも、悲しいことも、嬉しいことも、みんなこの1日の中に凝縮されている。

世界は広いけど、今このベンチの上から寝袋にくるまって見つめる1日の始まりは、確実に俺のためだけのものだ。

全ての人のための、平等な1日が始まる。

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少しも寒くなくなったおかげであまりにも快適に眠ることができた。

やっぱりこの寝袋は最低5℃が限界だな。

このスキージャケットがなければどれほど恐ろしい目に遭っていたことか。
ブリスベンのマークさんには感謝の言葉もない。


ただ今夜は空港で眠り、明日からは赤道付近の熱帯アジアに突入する。
もうこのスキージャケットにお世話になることもないだろう。

日本に帰るまでずっとバッグに入れておくにはあまりにかさばるこのスキージャケット。
こんなに素晴らしいクオリティのものをどうするか悩む。


捨てるか、誰かにあげるか、売るか………


この過酷なニュージーランドを共に乗り切ったという愛着が湧いて手放すことをなかなか決断させてくれない。

結局バッグの中に詰め込んで、久しぶりにスキージャケットなしの服装で街へと向かった。

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ニュージーランド最終日の今日にやるべきことは二つ。

ひとつは次の国であるシンガポールから出国するためのなんらかのチケットを入手すること。

シンガポールまでの航空券は持っている。
でもシンガポールを出国するチケットは持っていない。
規則の緩そうなアジアだから大丈夫だろ、と思いたいところだけど、シンガポールは誰もが口を揃える厳しい国だ。

アウトチケットの提示はもちろん、食品やタバコへの厳重な課税が国境審査で待ち受けているという情報はたくさん聞いている。

そこまで構えることはないと思うけど、ここが旅の最終ステージであるアジアの1発目の国だ。
ケチをつけずにスムーズに入りたい。


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というわけでシンガポールから隣国のマレーシアへと抜けるバスチケットを購入することに。

調べてみたところマレーシアのマラッカというところが世界遺産の町らしく、シンガポールとマレーシアを回る人の王道コースとなっているみたい。
シンガポール~マラッカが1500円くらいでバスが走っているそう。

マレーシアの首都のクアラルンプールはマラッカのすぐ隣なので2000円も出せばいけるだろう。


クレジットカードがあれば2秒で済む話だけど、いつものように旅行代理店巡りに出かけた。

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しかし多くの代理店がバスのブッキングは扱っていないという。
さらには、やっていたとしてもシンガポールとマレーシアだなんて他所の国のローカルな足なんて無理ですよと言う。



ぬぬ………確かに………



シンガポールに着いてから取ればいいじゃないですか?とトボけたことを言ってくるお姉さんにことの次第を説明してみたって、キチッとした大手の代理店は契約を結んでいる交通機関とのブッキングしかしてくれなくて融通がきかない。

わざわざiPhoneにシンガポールのバス会社のホームページを保存して、ここのバス会社でこういうやつを取りたいです、と後はパソコンで打つだけってところまで準備してあげているのにそれが出来ない。


たかがバスの予約をするだけなのになんでこんなに手こずらないといけないんだ、と重い荷物を引きずって月曜日のオークランドの街を歩く。








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昨日は日曜日だったので静かだったけど、さすがに月曜日だと街にも平日の慌ただしさがなくもない。

が、何かこんな都会のオークランドでさえどこか活気を感じないのはどうしてだろう。


コンクリートとガラスでできた街をたくさんの人種が入り混じった人々が行き交っている様子はオーストラリアから見てきたけど、このニュージーランドという国は田舎でも都会でも何か一種の静けさを感じてしまう。

ニュージーランドの人口は400万人。
実にその半分の200万人が集中しているこのオークランドだけど、どうしてもこの国の文明は自然を拓ききれていない土台の上にあるように思える。

しかしそれこそがポリネシアの島々のひとつであるという非文明的な匂いを残しているようでもあるのだが。

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ようやくひとつの旅行代理店でバスの予約ができた。

しかし行き先はシンガポールからクアラルンプールの区間しか取れないという。

手前にあるマラッカでアジアの世界遺産の町を見てみたいという思いはある。

これからのアジアをぞんざいな周り方をしないようにするためにも、少なくとも有名どころはおさえておきたいんだけどな………


東南アジアにどれだけの日数を割けるかはわからないが、時間がないことは確か。
しかし首都だけを巡って行くようなものにはしたくない。

どうするべきか………








悩んだ末、シンガポールからクアラルンプール行きのバスを買った。
値段は37ニュージーランドドル。
3400円てとこか。

かなり割高だけどこの国の物価を考えればそれくらいの手数料をかかるかな。

アジア地域で最も楽しみにしているのは中国。
どこに時間をかけるか、それは選んでいかないといけない。

アジア好きのマニアみたいな人たちからは、アジアの周り方ってやつはなぁ~と余裕顔で語られてしまいそうだけど、俺は俺のやり方でアジアを見てやるぞ。






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それからもうひとつのやるべきこと。

ニュージーランドドルの換金。

どうなんだろ?ニュージーランドドルってアジアで強いのかな?
他の国に持って行くことで価値がトイレットペーパーになってしまう通貨は結構ある。

ボスニアヘルツェゴビナのマルクとブルガリアレフは今だバッグの中で深い眠りから覚めないままだ。



だ、誰かボスニアヘルツェゴビナ行ってくれ………

サラエボいいとこだよ………

肉美味しいし………








てなわけでニュージーランドドルを米ドルに替えとこうと色々換金屋さんを回ってみた。
レートは悪くない。

でも考えた結果、やっぱりニュージーランドドルのまま持って行くことにした。

まぁ大丈夫だろ。
ドルって名のつくものはだいたいどこでも強いもんだ。










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さて、やることは終わった。

何しよう。

昨日はそんなにいなかったけど、メイン通りのクイーンストリートにはたくさんのストリートミュージシャンが立ち、演奏を披露している。

でもどれも目を引くような人はいない。
あまり上手な人はいないみたい。


目立つのは物乞い。
マクドナルドやバーガーキングの入り口横にたむろしてワーワー騒ぎながらお金をせびっている汚れた服を着た若者たちが多い。

あまりガラのいいものではないが、それがその街の光景に少し都会らしい喧騒を与えてはいた。




そんな街角で少し歌った。
でも30分で切り上げた。もう空港に向かおう。
10ドルほどのコインをポケットに入れ、空港行きのバスに乗り込んだ。












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16ドルのバスは郊外へと走り20分ほどで空港に着いた。
綺麗で広い空港内。


どこで寝ようかなとウロウロし、細い通路を抜けてひと気のないほうへとずっと歩いて行くと、奥まったところに広いスペースがあり、そこには俺と同じような考えの旅人たちがあちこちで寝袋に包まって眠っていた。

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展望スペースになっており、大きなガラスの向こうにはオレンジ色に照らされた空港の滑走路が不気味に静まり返っている。






バッグパッカーたちから少し離れた角のほうにマットを敷いた。
そこでコンセントでお湯を沸かしてカップラーメンを作った。

バッグの中にたくさん入っている食材を引っ張り出し、贅沢に封をあけまくる。
明日はシンガポール。税関がどんなシステムなのかはわからないが、あまり食品を持ってるのはよくないだろう。

節約しながら旅したニュージーランド最後の夜、飛行場の淡い景色を眺めながら豪華なディナーを食べた。

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長かったような早かったような。

無我夢中で走り続けてここまで来た。

ついに明日、この世界一周の最後の舞台、アジア編突入だ。







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お母さんへ

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5月20日 火曜日
【ニュージーランド】 オークランド
~ 【シンガポール】 シンガポール





お母さんへ




拝啓お母さん。お元気ですか?僕は元気です。お父さんも兄貴も元気ですか?犬のしんごは脱走はしていないですか?
いつもしんごが逃げるたびに心配して夕焼けの中でみんなで探しに行きました。しんごはいつも浜の岩場に鎖が絡まって動けなくなっていましたね。




今僕はニュージーランドの北部にあるオークランドという街の空港にいます。
ゆうべはこの空港の片隅で床にマットを敷き寝袋で寝ました。
お母さんやお父さんからしたら、空港の中で床で眠るなんてそんなみすぼらしい……と思うかもしれませんがこうしてバッグパックを背負った旅をしていると、快適な気温や警備員のいる治安の良さ、虫や雨風を防げる空港の中というのはそんじょそこらの安宿よりもはるかに安眠を得ることができるものです。

お母さんも山登りをしているので、過酷な状況で山小屋に泊まったりしていますよね。
それに比べれば空港なんてホテルみたいなものです。


毎日を堅実に真面目に生きるお母さんが週末に山に出かける時、寂しさもありましたが嬉しさももちろんあります。
お母さんの活発さとささやかな冒険心は今僕の中でしっかりと息づいています。









いつもお父さんに起こされるまで絶対に起きなかった僕が朝の5時半に起きたのは飛行機のためです。
オークランドからオーストラリアのメルボルンを経由してシンガポールに行きます。


昔お父さんが会社の慰安旅行かなにかでシンガポールに行きましたね。
海外なんて遠い海の向こうのことでそんなところに行けてしまうお父さんはすごいなぁと思ったおぼろげな記憶があります。

玄関の下駄箱の上に置いてあるマーライオンの置物は今も花瓶の横にありますか?
今からあのシンガポールに行くのかと思うと、時間の経過が自分の存在の確かさを示してくれるようです。








僕の今回の飛行機はLCC、ローコストキャリアーと言ってとても安い飛行機です。
普通なら7~8万円くらいするニュージーランドからシンガポールを、たったの2万7千円足らずで飛んでしまいます。

もっとも、その格安さにつられて購入してしまうのですが、別途でとても高い荷物代がかかってしまうというのが彼らのやり口ではあります。

ただそれを差し引いてもやはり格安の航空券ではありますが。


なのでまずは荷物の重量をきっちりと制限内に収めるために、朝からバッグと格闘しました。
制限重量は15kgです。それを超過するとさらに多額の追加料金が発生します。
なかなか厳しいもので1kgのオーバーでも1万円近く取られる、なんて話も聞いたりします。


あーでもないこーでもないと、バッグの中身をひっくり返して上手くまとまるように出し入れします。
まるで温泉旅館のテーブルの上に置いている木でできたパズルゲームみたいに、綺麗に容れ物に収めないといけないです。

でも僕がこういうパズルものはそれなりに得意ということはお母さんも知ってると思います。

急須の横に置いてある茶菓子を食べながらいつも1番にパズルを完成させてお母さんたちに自慢するのが好きでした。
こんなことを思い出しながら荷物を詰め込みました。


そして勇んでチェックインカウンターへ向かいました。

予約の紙を見せて荷物を重量計の上に乗せます。



17.8kg






ブフォオオ!!!!



おっといけません、受け付けのお姉さんに飲んでた水をぶちまけてしまいました。これはいけません。
子供のころにお兄ちゃんと牛乳を飲みながら笑わせあった頃を思い出しました。
お母さん、いつもカーペットを汚してすみませんでした。





「いいわ!時間がないから早く行って!!」


なんということでしょう。2.8kgもオーバーしているというのに搭乗時間が迫っているので見逃してもらえました。
お母さん、これもお母さんの躾の良さの賜物です。


言われたとおりに急いで走り、イミグレーションで2秒で出国手続きを終わらせて搭乗ゲートへとたどり着きました。

そしてチケットを見せてゲートを抜けたところでした。
お母さん、やはり美々津の駅の改札のようにキセルし放題とはいきませんね。
呼び止められました。



「おい、そのギターはなんだこのクソ野郎?」


外国というのは怖いものです。威圧的に僕の大事なギターを指差しました。

見ればわかんだろああん?!!このたくましいラガーマンめ!!

と心の中で言いながらギターでございます……と答えたところ、ギターを取り上げられました。




ひょっ!!!



「ちょ、あの、ちょ、ギターは、ちょ、さすがに勘弁していただけないでしょうか。俺ラグビーとかマジでブリリアントなスポーツだと思、」


「機内にギターなんてデケーもんが持ち込めるわけねぇだろ?メルボルンまで別荷物で送るから向こうで受け取れよ。ハバナイストリップ。」



慌てて書類を書いてくれ、ギターを壊れもので預かってくれました。
ラガーマンは優しいです。

ちなみにこれらは没収されましたが。

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飛行機は20日間過ごしたニュージーランドを飛び立ち、海上へと出ました。
オセアニア地域ともこれでお別れです。
シマンチュというやつは優しい素敵な人と相場が決まっていますが、ポリネシアの島の民たちもやはり例外なく、というか今まででもトップレベルに素敵な人種でした。
あのマオリの人々の屈託のない笑顔にこそ、マオリが白人世界で共存できている理由があるのではないかと思えます。
愛すべき人々です。










飛行機はあっという間にオーストラリアのメルボルンに着きました。
ここはただの経由地なので飛行機を乗り換えるだけです。なので荷物を受け取る必要もありません。

しかしさっき預けたギターは別です。メルボルンでピックアップしろよと言われていますので、またここでギターを預けなおさなくてはいけません。

そして荷物を受け取るためには一度入国イミグレーションを通過しなければいけないのです。

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面倒くさがりな僕ですが、ギターのためならばやらないわけにはいきません。

入国カードを記入して急いでイミグレーションに向かうと、そこには恐ろしいほどの長蛇の列が出来ており、入国カウンターが人ごみのはるか向こうに見えました。


おとなしく列の最後尾に並んではみたものの、次の飛行機まであと50分しかありません。

早くしろこのカンガルー!!と思いながらソワソワソワソワ並んでいましたが、一向に、一向に前に進まず、フライトの時間まで30分となってしまいました。



こりゃダメだ!!と猛ダッシュです。
空港の中を猛ダッシュ。


そしてトランスファーカウンターに行き、ジェットスターの職員さんをふんづかまえてこの次第を説明しました。

例外的なことだったのでなかなか理解してもらえなかったのですが、ようやくわかってもらえたようで、トランシーバーで色んなところに確認を取ってくれました。

時間はまったくありません。
しかしオークランドの職員さんはメルボルンで受け取れと言っていました。

段取りは出来ているはずです。世界を飛び回る航空会社なのですから、これくらい当たり前でしょう。


でもおばさんの口から出たのは、驚きの言葉でした。


「今、どこにあるかわからない。」



なんということでしょう。ウンコが漏れたみたいです。
小学校の帰り道を思い出しました。


ウンコを漏らしながらどういうことか問いただしても、今はわからない、とにかくやれるだけやってみる、今日は無理だとしても明日の飛行機でシンガポールに送るから心配するなと言うんです。ていうか早く飛行機乗れこのウンコマンめ、と言ってきます。


僕にとってギターがどれほどのものか、お母さんならよくわかると思います。
晩ご飯の時にいつもジャカジャカ弾いていて早く食べなさい!!と怒られていましたよね。

そんな大事なギターなのに、どうとりあっても答えは変わりません。

明日、明日送る、それだけです。


仕方なく飛行機に乗りました。
飛行機がガタガタとよく揺れて不安の影はいっそう心に影を落としていました。

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シンガポールでもギターは見つかりませんでした。

そして荷物受け取り場で預けていたキャリーバッグをピックアップしたのですが、乱暴に扱われたのでしょう、土台のキャリーがぶち壊れて金具がぶら下がった状態になっており、1人では立つことが出来なくなっていました。

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お母さん、ギターがなくなり、キャリーバッグが壊され、おまけにナイフもシャンプーも没収されて、なんですかこれは?
シンガポールに着いたはいいもののズタボロです。アジア初っ端から無駄にトラブルまみれです。



とにかく黙ってるわけにはいかないのでインフォメーションに訴えました。

驚きました、スタッフが全員中国人なのです。いや、周りを歩いている人すべてが中国人と東南アジア人なのです。


そうここはもうアジアの一角だったのです。
僕と同じアジア人の顔をした人たちが暮らすエリアに突入したのです。
2年近く欧米人やラテンアメリカなどの人種の中で暮らしていたので、アジア人しかしないという状況がとても違和感がありました。

でも戦わないといけないことには変わりないです。



「ちゅー、ちょっちー、ちょーちゅー、」


何を言っているのでしょう、このシンガポール人は。
そんなに焼酎が好きなのですか?

と思って僕もだよと答えかけたのですが、どうやら彼は英語を喋っているようです。


しかし中国語と英語が混ざりまくっており、人生初の言語に聞こえてしまうのです。
それがとても東洋的で、この時に初めてアジアに来たことを実感したんです。

シンガポールとは一体どんな国なのだろう!!僕はついにアジアに着いた!!









バゲッジフロントでは簡単な書類を書いただけで終わりました。
なかなか状況を飲み込んでもらえず、キャリーバッグが壊れた、壊れたんでしょ?ギターがない?だからバッグが壊れたんでしょ?いやギターもないんです!!ギターどこですか!!というもどかしいやり取りを謎の英語でなんとかやり取りし、2枚の書類を作ってもらいました。

バッグに関しては2~3日中に業者が金丸さんの元にバッグを受け取りに行き、修理の段取りをさせてもらいます、とのこと。

ギターに関してはどこにあるかわからないのでまた連絡しますとのこと。

そんなあやふやな対応のまま空港ロビーに放り出されました。



床には立ち上がらなくて横たわったままの壊れたキャリーバッグ。そしていつも右手に持っているはずのギターは影も形もなく、手持ち無沙汰ですごい不安に襲われます。

シンガポールという未知の国の空港で、中国人、マレーシア人、インド人が入り混じった人ごみの中にポツリと立ち尽くしました。

どうすればいいのか混乱しました。
ギターがない。今頃まだメルボルンの空港に放置されているのか、それとも誰かが持って行ってしまってもはや行方は風のみぞ知る状況なのか………

犬のしんごの迷子なら鳴き声でどこにいるかわかりますが、こんな海を越えた迷子なんて絶望という文字しか頭に浮かんで来なかったです。










とにかく、今はシンガポールです。
やるべきことをやらないといけません。


Wi-Fiに繋いでメールのチェックをしました。
そうです、先日オーストラリアで会った世界一周中のカメラガール、アンナちゃんと今日このシンガポールで待ち合わせをする予定なのです。

アンナちゃんも着いたばかりのシンガポールで1人で不安でいることでしょう。

高校生のころに僕が家に女の子を連れて来るたびにお母さんに小言を言われていましたね。
頼むから子供は作らないでね、と言われていたことを思い出します。
ひどい高校生時代でした。

今ではあの頃よりもう少しジェントルマンになれていると思います。


なので早く落ち合って僕のマーをライオンにしなきゃ!
ジェントルにマーをライオンにしなきゃ!





マーをライオンにするために待ち合わせ場所を指定するメールを前もってアンナちゃんに送っていたのですが、ちゃんと確認してもらえたかな。

ブルジュハイファという大きなランドマークのホテルがシンガポールにあるので、そこで会おうと伝えていました。
あそこなら誰でもわかるはずなので迷うことはないでしょう。

ギター紛失の手続きで遅くなってしまったので、心配でした。



心配…………でした……



あれ?



ブルジュハイファ………?








まさかのドバイ指定。



なんということでしょう。
ブルジュハイファはシンガポールではなくてドバイにあるホテルの名前でした。

ドバイで会おうね?何をほざいてるんだこのホーケイは?


と困惑してるアンナちゃんが目に浮かびました。
僕のおっちょこちょいはまだ治っていないみたいです。



マジやっべェと思って急いでメールを確認しました。






その1時間後。








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お母さん、僕はブルジュハイファ、じゃなくてマリーナベイサンズの屋上で空中プールからシンガポールの街を見渡しました。

とてつもない近未来の街が広がっていました。
想像を絶する人工物です。人間はここまでのものを作り上げてしまうのですね。
ボンベルタと山形屋を超えてきました。

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屋上庭園にはとある方の紹介で入らせていただきました。

シンガポールにはたくさんの日本人が住んでおり、各方面の様々な方からご連絡をもらっていたんです。

こちらにいらした際には是非お会いしましょうと言っていただいておりました。

そしてシンガポールに着いてわずか2時間後に、僕はシンガポールの頂点にいました。

お母さん、この街はなんでしょう。
こんな場所がこの世界に存在するのかと目を疑うほどの光景です。

バビロンの塔は人間の傲慢さと神への冒涜の象徴ですが、この街もまたそのような匂いを感じずにはいられない人智を超えたスケールなのです。

もちろん、作り上げたのは紛れもなく人間の手ですが。


宮崎の、美々津の、あの穏やかな空と潮騒、菜の花畑、線路と汽笛、

これが同じ地球上に存在するのですね。

お母さんに見てもらいたい。いや、見ないほうがいいのかもしれません。

この街には、きっと何かを壊してしまうほどの力があるように思いました。

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アンナちゃんとは無事会うことができました。
そして一緒に全てが計算され尽くしたマリーナの桟橋を歩きました。

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光があらゆるところで瞬き、影はより強い影になりますが、その影さえも計算して作られたもののように見えます。

人々はその異様なまでに作り上げられた美しさというか圧倒的な存在に酔いしれ、誰もが夢とうつつの狭間を漂うように光を眺めていました。


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アジアとはどういうところなのでしょう。

人間の本能と欲が渦巻き、その熱による蒸気が夜空へと立ち昇っていくようです。


仏教の哲学や、貧しさへの恐れや、臭ってきそうなほどの人間の業が充満しているような……アジアとはそんな場所だと想像していました。

ひとつ言えるのは、この凄まじい近未来都市の中にいても、ここは白人世界とは完全にかけ離れた独特の空気に満ちているということです。


生暖かい夜風がねっとりと肌に絡みつき、これからのアジア旅を濃厚なものにすることを予感させてくれました。

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その先に待ち受けているのが、あの線路と汽笛、空と潮騒、故郷の宮崎です。

あともう少しです。
心配かけてごめん。
いつも応援してくれてありがとう。

きっと無事に帰るから、帰った夜にはすき焼きと、いつも日曜日のお昼に作ってくれたあの玉ねぎと豚バラのヤキメシを作ってください。


お母さん、定年退職おめでとう。長い間お疲れ様。
そして誕生日も、母の日も、ろくにお祝いしないでごめんね。
帰ったら一緒に山に登りましょう。


子供の頃から下駄箱の上にあったマーライオンの置物。
たくさんの観光客に囲まれていました。
いつかお父さんもここに立ったんですよね。

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僕は元気です。









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ギターと小銭と世界地図

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5月21日 水曜日
【シンガポール】 シンガポール





確かアメリカを回っているあたりの頃に1通のメールをもらった。

シンガポールに在住の女性で、もしシンガポールに来た際には連絡を下さいということだった。


こうして顔も何もわからない方とメールのやり取りをすることはよくあるんだけど、アメリカを回っていた頃にアジアのシンガポールのことなんて遥か先のことで何の約束も出来ないままで月日は流れた。



そして先日久しぶりにこのエミさんからメールが来た。


もうそろそろシンガポールですよね?ウチに泊まっていいですよ、との嬉しいお誘いだった。

アメリカから始まったメル友さんと1年越しの出会いなんて面白いものだし、シンガポールはアジアの中でも飛び抜けて物価の高いところなのでホテル代を浮かすことが出来るのはとても有難いことだった。


信頼と実績のイクゾー情報では空港で快適に泊まることができるという話だったが、お宅に泊まれるに越したことはない。


お言葉に甘えますとメールを返し、そして今、エミさんの家で目を覚ました。





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「金丸さん、おはようございますー、アンナちゃんもおはようー。」



シンガポールにある日系企業で働いているエミさん。
アンナちゃんも是非泊まってくださいと言ってくださり、ゆうべは朝の4時までコンドミニアムの中庭のプールサイドで飲みながらお話をした。

シンガポールに着いてゆうべからたくさんの方とお会いし、そしてまだたくさんの方とお会いする約束をしている。
全員との約束は果たせないかもしれないが、時間の許す限りお会いし、シンガポールでの生活ってやつを聞かせてもらいたい。








あと、そう、このシンガポールでもう1人、どうしても会いたい人がいる。

どうしてもこの人には会いたい。





その人とのメールのやり取りを一部ご紹介。







「金丸さん、今どこですか?」



「今マリーナベイサンズの屋上のプールだよ。すごいよ。」



「なんすかそれ!!?………その情報ツライっす………」



「そんで知り合いのとこに泊めてもらえることになってるよ。そっちはどこ?」



「チャンギです………」



「ウケる(´Д` )」









さてこのメールの相手は誰でしょう。

僕が最近で1番好きな人です。
あ、チャンギってのはシンガポールの空港の名前です。チャンギ国際空港。


そう、現在、チャンギの主といえばあの男…………









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シンガポールといえば真っ先に思い浮かぶのがマーライオン。
そして次が罰金大国ということ。

地面に唾を吐いたらいくら、タバコをポイ捨てしたらいくら、などなど、とてつもなく厳しい規則があるということだが、確かにこの果てしなく整備されつくした近未来都市にはゴミひとつ落ちていないし、ともすれば地べたに座るなんてラフな行為すらはばかられる。

街のあらゆるところに監視カメラが備えつけられているし、もし警察にお世話になるようなことがあったら2度目はない、ということだ。

例えば万引きをして捕まって前科がつけばそれは生涯シンガポールで職に就けないということを意味し、16歳の女の子がマリファナを吸って死刑になったという話もあるそう。




アジアといえば本能と欲望が渦巻くカオスの代名詞。
規則なんてあってないようなもので、その自由なまどろむを空気を求めて世界中のヒッピーたちが集まるバッグパッカーの聖地。


しかしこのシンガポールだけはその自由でルーズなアジア人たちを強靭な規則で縛りつけ、世界トップレベルの経済大国という位置を保たせているようだ。




喋る言葉は英語。
人種の入り混じり方。
ひとつの国にひとつの街しかないという小ささ。
アジアにあってまるでアジアでないその不思議な雰囲気。
謎しかない。

これから12日間でどれだけその謎を解き明かせるか。







しかし…………







俺がその国の懐を覗くための武器であるギター。

そのギターは未だ行方不明のまま………






アンナちゃんやエミさんといるのは嬉しいんだけど、ずっと気分が浮かない。

メルボルンの空港職員は今日の便でシンガポールに送るからと言ってはいたけど、本当かなぁ………



「金丸さん、空港に行く前にまず電話して確認しましょう。私に話させてください。こういうのは任せてください。現地の人間の性格は理解していますから。」


エミさんがそう言ってくれる。
日系企業で働いているエミさんはクレーム対応の仕事をする時もあるそう。
欧米人から中国人からインド人まであらゆる人種を相手にしてきてるので、クレームの扱い方もつけ方もプロ中のプロってわけだ。



「ハロー、ロストバゲージでギターがなくなったんですがまだシンガポールには着いていませんか?まだ着いていない?どうなってるんですか?とても大事なものなんです!!早く調べてください!!」


エミさんのツボを突いた的確な訴えで強めの姿勢を見せていく。

相手が言うには情報が入り次第連絡させてもらいます、とのこと。



「お願いしますよ!いつでも、本当に何時でもいいので早く連絡してください!!あともうひとつの預け荷物のバッグも壊れてるんです!!こっちはどうしてくれるんです!!」



エミさんの一歩も引かない話し方に、そ、そこまで言うと向こうも怒っちゃうじゃ………とつい腰が引けてしまう。


「金丸さん、ダメです。この人たちはキッチリ言わないと絶対に調べないです。遠慮したらダメですからね。」


ありがとうございます、エミさん。









しかし、そんなエミさんの健闘も虚しくまだギターは行方がまったくわからないとのこと。

ムクムクと黒い影が心ににじり寄る。
ここに来て初めて、まさか……という最悪のシチュエーションが頭に浮かんできた。



結構楽観視していた。

ちゃんとした航空会社だもん。
荷物がなくなるなんてあり得ない。乗せ忘れてしまうことはあるかもしれないが、所在はキチンと把握されていて、いつ何処に動くかなんて調べればすぐにわかるもんだと………


それが、どこにあるかまったく情報がないなんて………




大丈夫ですよと言ってくれるエミさん。
また夕方に電話してみることにするが、とにかく今日はギターがないので何も出来ないことは確定した。












気を取り直してとある男にメールを送った。
今から落ち合おうと場所を指定し、近くの電車の駅に向かう。

そう、あの男。


今アジアの路上を引っかき回している、世界で1番世界一周できなさそうな旅人…………





「あー、金丸さんー、お久しぶりですー!!」







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小林イクゾー、参上。



「うわー、なんかあれから1ヶ月くらいしか経ってないのにめちゃくちゃ色んなことありましたよね。ニュージーランドどうでした?」


「よかったよ。そっちは?チャンギ空港って寝やすいの?」


「チャンギマジ最高っすよ。いつもチャンギの中を歩いたりしてます。チャンギのことなら任せてください。」




オーストラリアのシドニーで初めて会い、毎日一緒にセブンイレブンの1ドルコーヒーを飲んでいた日々が懐かしく思い出される。

なんか心なしかあの頃に比べてイクゾー君が小ざっぱりしている気がする。


髪の毛もサラサラだし顔もキチンとしている。
あの頃はもっとぬか漬けみたいになってたのに。

まぁ、あれから1ヶ月だもんな。
イクゾー君もだいぶ旅慣れしてきて体が馴染んできたのかな。









俺のブログを読んでいるエミさんなのでイクゾー君のことは知ってくれているし、アンナちゃんもランキングに参加しているブロガーだ。
ブログランキングに旋風を巻き起こしたイクゾー君のことはもちろん知っている。

自己紹介にそんなに時間もかからず、みんなでエミさんの家へと向かった。

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「ところでどうしてチャンギなの?なんかメールで高級ホテルに泊まってるんですって言ってたじゃん。」


「そうなんですよ。でも1泊だけです。」



なにやら路上で歌ってるところで羽振りのいい男性に泊まるところはないのか、と聞かれ、ないと答えたところものすごく豪華なホテルに泊まらせてもらったんだそうだ。



「マジヤバかったんですよ。もう鍵とか普通じゃなくて。ガチャガチャって回すやつじゃなくて鍵がカードなんですよ。かざすとピッてなるんです。ヤバくないですか?」


「う、うん、それ普通だと思うよ……」




相変わらず大笑いさせてくれるイクゾー君。

ギターケースも相変わらずボロくて、オーストラリアでサンシャインコーストへヒッチハイクした時のガムテープを貼ったままのイカした姿。




「あ、そういえばギターの弦は張り替えた?1弦が切れたままだったやん。」


「そうなんですよ、ずっと1弦ないままだったんですけど、最近向上心でてきちゃって張り替えたんです。1ヶ月ぶりに1弦張ったらめっちゃ違和感あるんですよ。あれ?なんかいる……みたいな。」



イクゾー君の話にみんなで大笑い。
エミさん、お仕事が忙しくてあまりお友達と遊ぶ時間も取れないらしく、久しぶりにこんなに大勢で休日を過ごしているのがとても嬉しいと言ってくれる。



「でもマレーシアの弦、マジでクソなんですよ。お店で買うじゃないですか。普通に安くて10ドルとかするんですよ。それで店内で弦を張り替えてたら買ったそばからポキって折れるんです。はぁ?って店員さんに目の前でこれ今買ったよね?って見せたらそんなもんだよみたいなこと言うんですよ。マレーシアに絶対プロいないですよ。」








photo:05



再会を祝して晩ご飯を作ろうとみんなで買い物に出かけた。

むわりとした熱気が立ち込めるシンガポール。
住宅地の光景はアジアとは思えないほどの落ち着いた雰囲気で、綺麗な一戸建てがスマートに並んでいる。


しかしスーパーマーケットに行ってみると、ここがアジアなんだということを思いさらされる。


表にひしめく屋台街を見たときの感動ったらなかった。
たくさんのテーブルと椅子が隙間なく並べられ、人々が美味しそうな麺料理や炒め物を食べていた。

photo:07



お店の看板には無数の料理の写真が並んでおり、店内で中国人のおじさんが鍋を振っている。

欧米のオシャレさなんて欠片もないけれど、この大衆的な雑然さがたまらなく懐かしくて、たまらなくワクワクさせてくれる。

photo:08




値段もどれも4~5シンガポドル。高くて8シンガポドルってとこ。
5シンガポドルで420円くらい。
オーストラリアやニュージーランドから来た身からしたら感激して震えてくる。


ここはシンガポールなのできっとこれでも本場のアジアの屋台に比べたら落ち着いたものなんだろう。

でもこれがアジア初の俺にとっては、なんとも言えないものがこみ上げてくる。




photo:09



スーパーの中も、当たり前だけど全てアジアの食材だった。

アジア食品店は世界中どこにでもあるけれど、本場となると品揃えも値段も当たり前に素晴らしい。


そして日本の商品もとても多い。
別に日本人相手に売っているものではなく、諸外国にアメリカの製品が売ってあるように、アジアでは日本のものがとてもポピュラーなものとして親しまれているように感じる。



ああ!!
コーラが2リットルで2シンガポドル!!170円!!

きっとこれでも高いんだと思う。イクゾー君の話ではマレーシアに行くとコーラは70円くらいで買えるそうだ。


ああ………最高だ………
アジアに来たんだー………









ビールはそこそこするようで、安くて350mlの缶が170円くらい。
タバコは1000円くらいだ。


物価の高いシンガポールと言われているけど、安く収めようと思えばいくらでも節約出来そう。


ちなみに昨日空港から街の中心部へ電車で行ったんだけど2.5シンガポドルだった。170円。

そう!!これが普通!!オーストラリアとかニュージーランドみたいにバスで1700円とかしない!!





ここまではもう天国でしかないシンガポールだけど、あとは路上でどれだけ稼げるかってとこだな。

イクゾー君の話では、シンガポールでは無数の警察が目を光らせ、さらに人通りの多い場所には必ずライセンス持ちのバスカーが陣取っており、強引に演奏しようものなら俺たちのシマを荒らすな!!とケンカ腰で追っ払ってきたりと、毎日のように熾烈な争いが繰り広げられるそう。
パスポートをチェックされるたびに場所を変えなければいけないし、あがりも30~40シンガポドルってところ。
2500円くらいだ。そいつはキツい。


もっとも最近では場所選びも上手くなってきたらしく、150シンガポドルほど稼ぐ日もあるというイクゾー君。




ちなみにバスキングライセンスは観光ビザでは取ることが出来ないみたい。
完全にシンガポール人のみが対象とのこと。

しかしシンガポールには地元民バスカーがたくさんいるが、それと同じくらい外国人バスカーもいるそう。

みんな目立たないように細々とやっているんだろうな。


実際にやってきたイクゾー君が言うには、警察よりも地元民バスカーとのシマ争いのほうが厳しいらしく、彼らが警察に通報して注意されるというパターンがほとんどだそう。

地元民バスカーには障害者が多いらしく、彼らの生活支援の一環ということもあるだろう。


なんにせよ、彼らに敬意は払わないといけない。

10日間、邪魔にならないところでひっそりとやらせてもらおう。













エミさんの家に戻ると夕方になっていたので、もう1度空港に電話をかけることに。

そう、今はなによりもギター。



流暢な英語で強気に攻めてくれるエミさん。
空港職員は中国英語なので俺は何言ってるかちんぷんかんぷんだけど、シンガポールに2年住んでいるエミさんはもちろん全て理解できる。

エミさんがいてくれて本当に助かった。






のだが、やはりギターの消息は不明のままだった。

力なく電話を切るエミさん。




嘘だろ………

頼む、嘘であってくれ………




アジアが最後のステージなんだよ。
今までずっと一緒にやってきた相棒とここでお別れなんて考えたくない。

たったの5千円で買ったギターだけど、俺にとっては金では買えないギターなんだよ。


頼むよ…………
今一体どこにあるんだよ…………



キッチンではアンナちゃんとイクゾー君が楽しそうにご飯を作っている。
俺のチャーハンマジでヤバイですからとか言いながらイクゾー君が玉ねぎを切っている。

俺も混ざりたいけど、とてもそんな気になれなくて部屋にこもっていた。














ギターどうしよう。

買う金はある。

3万円くらいで買うことは出来るはず。

あとアジアだけだ。別に10万のギターを買わなくてもなんとかなるはず。

でも、最後まであいつと行きたかったのに………



30分くらいしてエミさんがまた空港に電話をしてくれた。

昨日乗ってきたメルボルンからの同じ時間の飛行機が到着しているはずだと問い詰める。

しかしその飛行機は到着が遅れているのでまだシンガポールに来ていないとのこと。




体が脱力してベッドに倒れる。
頭が混乱して、どうすればいいかわからない。

ギターどうしよう。







するとエミさんがiPhoneで何かを調べている。

シンガポールの空港ホームページに入り、飛行機の発着状況を調べているようだ。

そんなこと出来るんだな。



「………あ!メルボルンからの飛行機、もうチャンギ空港に着いてる!もう一回電話するわ!!」



ホームページサイトには確かにメルボルン発の飛行機がシンガポールに到着していると表示されていた。

すぐに電話をかけてくれるエミさん。


「メルボルンからの飛行機、もう着いてるじゃないの!!どういうこと!!すぐに確認して!!」


「あー、はいー……………………あ、ギターありますねー、取りに来られますか?配達しますか?」




















……………ぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお前侘びとしてフカヒレとか持ってこいやコラアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!

俺の太極拳で内臓えぐり出すぞこの4千年の歴史め!!!!!


なめんじゃねぇぞ!!今すぐ持ってこい!!!
リムジンで持ってこい!!



「あ、あの………大変申し上げにくいのですが……お伝えしなければいけないことがあります………」


なんだ!!言ってみろこの野郎!!
北京ダックも持ってこいやあああんんん!!???


「ギターを確認いたしましたところ、ギターケースが大破しておりまして、使用不可能の状態になってしまいました………」





うん、それ元から。
それずっと使用しております。







とにかく持ってこいや!!と伝えたものの、待っている間ギター自体にダメージがないかが心配で気が気じゃない。

うんこ漏れそうになりながら待っていると、30分くらいして玄関のベルが鳴った。








photo:10



ペグが折れ曲がっちょりやる。



「大変申し訳ありません。ギターケースが深刻なダメージを受けてしまいました。こちらはカバー代金として受け取ってください。」




ペグじゃなくてそっちですか。

photo:11




うん、ケースは元からっていうか、俺これでいつも街を歩いてるんですけど(´Д` )




そして50シンガポドルを出してくる配達人。

ギターケースは元からボロボロではあったけどペグが折れ曲がってるのと1日ギター触れなかったのとでもらっておくことに。

もうバッグの修理もこれで勘弁してやるか。





とにかく…………










「やったあああああああああ!!!!!ギター返ってきたああああああああああ!!!!!」


「金丸さんやりましたね!!もう飲みましょう!!」


「フミ君、よかったね。これで路上できるね。」


「よし!!金丸さん!!もう風俗行きましょう!!」


「それは嫌。」




ドサクサに紛れてアンナちゃんのおっぱい触ろうとしたけど殴られそうなのでやっぱりやめといてイクゾー君が作った晩ご飯を持ってみんなで中庭のプールサイドへ。



「お、美味しいやん!イクゾー君、料理できるんや!!」


「任してください!何でもできる男、ウィルスイクゾーですから。」




ギターも戻ってきてやっと落ち着いた。
ずっと一緒にいたギターが手元にないだけでたまらなく不安だった。

生ぬるい夜風の中でゆっくりとビールをあおる。





「俺シンガポール出る前にマリーナベイサンズに1泊してやろうと思うんですよ。一生懸命歌って稼いでその有り金はたいてマリーナベイサンズに泊まってやるんですよ。1泊だけ。俺みたいな奴でも頑張れば泊まれる、って夢ありませんか!?」




相変わらず破天荒なことを言うイクゾー君。
オーストラリアで会った頃はまだ戸惑ってばかりで1日を生き抜くのに必死になっていたというのに、こんなにたくましくなっていることがこれまでのイクゾー君の旅の過酷さを物語っていた。


「せっかく旅するんだからまだ誰もやったことないことやりたいっすよ。例えばそうっすね、自分でロケット作って宇宙行ったら初ですよね。よし、今から工具買ってきますとか言って。」



イクゾー君の旅は今まで会ってきた旅人のものとは根本が違う。
多くの旅人が賢く未来のことを見据え、冒険をしているとはいえどこか旅ってやつを通過点としてしか捉えていない。
なので、旅をやり切ることにそこまで疑問を抱かない。

イクゾー君の旅は別に世界一周にこだわらない模索する旅だから、今のこのある程度稼げて安定してきた旅に疑問を抱き始めているようだった。
とんでもないことに飛び込んだ。しかし旅はやれる、ということがわかった。
それが物足りなくなっているようだった。



「えー、俺次なにしよっかなー。」


笑いながら空を見上げてるイクゾーがめちゃカッコ良く見えた。

そうなんだよな。俺たちなんでも出来るんだよ。
イクゾー君を見てるといかに自分や周りの旅人が見えない枠に縛られてるかを感じずにはいられないよ。

自由な男だ。






「よし、もういっそのことニューハーフになればいいじゃん。」


「なるほど、そうっすね顔面にタトゥー入れて攻めるニューハーフに……ってなんですかそれ、やっばいですよ。」


「うん、それでさらにムスリムになったらいいんだよ。そしたらサウジアラビアとか行けるよ。」


「なんすかそれ、それモハメドいく子じゃないですか。やっばいですよ。もうバスキングとかどこ行ったんだって話ですよ。」



「ムスリムになったらお祈りしなきゃいけないよ。1日5回。」


「1日5回とかせっかくブログやめたのにブログより不自由じゃないですか。ていうかなんで笑いながら言うんですか。全然真剣じゃねぇこの人。」



アンナちゃんとエミさんもイクゾー君の話に大笑い。
コンドミニアムの警備員さんにもう少し声量をおとしてねと言われてしまった。
あー、なんて面白い男だ。




「ていうかそう言う金丸さんはどうやってアジア回って行くんですか?」


「え?俺?俺は普通に回るよ。」


「うわ!!最低だ!!この人最低だ!!」




きっと普通じゃ回れない。

アジア、面白そうな幕開け。







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アジア最初の路上

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5月22日 木曜日
【シンガポール】 シンガポール





photo:03



朝、アンナちゃんとご飯を作ってみんなで食べ、テラスでタバコを吸う。

安い巻きタバコ。



「イクゾー君ー。シンガポールも相変わらずタバコ高いね。これじゃあ吸えないなぁ。」


「そうっすね、12ドルとかしますもんね。」


「ニュージーランドでも吸えなくて我慢してたのに。イクゾー君、禁煙できる?」


「無理っす。1日も無理っす。中学生の頃とかお金ないから落ち葉吸ってましたもん。」


「へー、そうなんだーって落ち葉!!??嘘つけ!!」


「嘘じゃないですよ!!公園に行って枯れた落ち葉をくしゃくしゃにして教科書を破いて巻くんです。ていうか落ち葉吸ってなかったんですか!?」


「吸うわけねぇやろ。」


「ええ!?ここ笑うとこじゃないですよ、懐かしむところですよ。静岡じゃ普通なんだけどなぁ。味はわかばとトントンです。」




静岡の不良は本当にタバコの代わりに落ち葉を吸うのかどうかは置いといて、ギターも戻ってきたので今日から路上開始です。

これまでシンガポールのありとあらゆるところで路上をしてきたイクゾー君だけど、これといったベストポジションはまだ見つかってないそう。

いつも良さそうな場所を見つけたかと思えば他のバスカーがいたり警察に怒られたりして、移動しては注意され、移動しては注意されの繰り返しでいつの間にかシンガポールの道を知り尽くしたマスターとなったそう。

今日もまた新しいところを探さないといけないです、と難しい顔をしてる。

シンガポールの路上ポイントは足で探すしかないな。

photo:04









東京23区と同じほどの大きさしかないこのシンガポールという国。

その中心部にぐじゃぐじゃー!!っと高層ビルが立ち並び、いろんなエリアごとに個性のある街があるんだそう。

例えばマリーナベイサンズがある観光のメインエリアはお台場に当たるような感じかな。

イクゾー君オススメの銀座に当たるオーチャードというエリアからシンガポール攻略を始めていくとしよう。









綺麗すぎる電車に乗って街の中心部へ。エミさんもお仕事なのでそれに合わせてみんなで出発した。

photo:05




「いやー、暑いですねー。こりゃ汗だくになるなぁ。」


「あ、フミ君、水飲んだらダメ。電車の中で水飲んだら罰金だから。」


「…………マーライオンあんなに水吐いてるくせに?」


「気をつけてね。」




怖えええ

どこまで違反かわからんわ………

photo:01



photo:06




電車の案内が4言語で表記してある。

photo:07














そんなこんなでオーチャードの駅にやってきたんだけど………


photo:02



まぁごちゃごちゃ………


電車を降りてみたものの、地下には凄まじい迷路が蟻の巣のように張り巡らされており、エスカレーターや吹き抜けやらもうわけわからん。

人もひっきりなしに行き交っており歩きにくいことこの上ない。
ここが地下なのか地上なのかもわからない。

photo:08



そして全てのお店がきらびやかでオシャレで、ラグジュアリーな装飾に輝いている。


歩いている人は中国人かインド人かマレーシア人という、お洒落とはかけ離れたイメージを持っていた人々だけれど、彼らのセンスの良さと上品な立ち振る舞いはどういうことだ。


颯爽とカッコ良く歩いていく女の子はスタイル抜群で髪の毛はキラキラに手入れされ、男性のスマートなスーツ姿はまるでモデルさんみたいだ。

シンガポール人は日本人とほとんど同じ顔をしているけど、彼らの洗練のされ方は日本の若者を超えてるんじゃないかと思えてくる。






photo:09



やっとこさ地上に上がると、そこには信じられないような近未来的ビルディングが乱立していた。


度肝を抜くようなスケールの建物、奇抜なデザインが織りなすコンクリートとガラスのアンサンブル。

直線と曲線が入り乱れ、そこには自然のものが欠片も存在していなかった。

photo:10



ルイヴィトンやプラダなどの名だたる高級ブランド店がどこまでも連なり、この街のラグジュアリー感を余すところなく演出している。

今まで訪れた世界のどの大都市よりも圧倒的な規模。
そしてゴミひとつ落ちていない地面。

こいつがシンガポールか。
そしてここがこの国の銀座、オーチャードだ。

photo:11



photo:12












イクゾー君の話ではこのオーチャード駅の地下にそれぞれのビルを繋ぐ地下道がある、とのことだったが、確かに路上向きのいい地下道はあったものの、全ての通りに綺麗に他のバスカーたちが陣取っていた。

photo:13




まぁ見事に全ての地下道に配置されており入り込むスペース皆無。

みんなマイクを使ってハーモニカを吹いたりギターを弾いたり、中にはただティッシュを配ってる人も。



そのほとんどが盲目だったり車椅子だったりとハンディキャップを持った人たちのようだ。

もちろん全員バスキングのライセンスを持っている。

こいつはバスカーというよりは、国公認の援助活動みたいなもんだ。

芸を売ってお金を落としてもらう俺たちとは完全に質が違う。
そしてかなりこっちの肩身も狭い。


うーん、こんな密度で地元バスカーたちがいるのか………
こいつはイクゾー君が手こずるのも分かるわ。

イクゾー君、最近はもうヤケになってマーライオンの前で歌ってたとか言うし。



マーライオンの前て(´Д` )

思い切りすぎやろあんな世界中から人が集まる場所で(´Д` )








そんな地下道の中に1ヶ所、先客のいない場所があった。
とにかくダメ元でやってみるかと歌ってみた。

しかし少ししたところで、目をつぶって杖を持ったおじさんが、身内であろうおばさんに寄り添われながらやってきた。


「おい、お前はライセンチュを持っちぇるのか?」


中国人の小柄なおじさん。
中国英語なので何言ってるのか聞き取れないがなんとか耳を傾ける。


「ライセンチュ持っちぇないにゃらどどっか行け。行かにゃいにゃら警察を呼ぶ。」


「おじさんが呼ぶんですか?」


「そうだ、俺が呼ぶ。消えりょ。」




取りつく島、島影もなし。


仕方なく地下道は諦めて地上で探すことに。








photo:14



暑い日差しと湿気を含んだ熱風がむわりとアスファルトの上を流れる。

首に髪がからみつき、背中を汗がしたたる。

そしてショップやモールの前を通り過ぎると、入り口から流れ出る冷房が冷んやりと気持ちいい。






シンガポールの路上事情はイクゾー君以外からも色々聞いている。

日本人のパフォーマーもたくさんいるらしくて、稼ぐ人は1日で1000シンガポールドルを超えてくるらしい。


飯は美味い、物価もそこまで高くない、女の子は可愛い、そしてビザの制約がない。


アジアに棲みついている旅人たちで、お金がなくなればシンガポールに行き、稼いでからまたタイやラオスなどの安い国に行き、またお金がなくなればシンガポールに出稼ぎ、という生活をしてる人も少なくないとのこと。

確かにそれをやってれば東南アジアではひたすらハイレベルな生活を楽しめるだろうし、女だってよりどりみどりで買い放題。

シンガポールは滞在日数がヤバくなっても、マレーシアに出れば1日でまた日数がリセットされるらしく、無限にこのループが出来るってわけだ。


まぁもちろん全員がそうじゃないんだけど、そういう話もたまに聞く。
シンガポールはアジアでマリファナを楽しみたいヒッピーバスカーたちにとって楽園のような場所なんだろうな。








photo:15



ポツポツとそこらへんにおじさんたちが座ってバイオリンを弾いたりハーモニカを吹いたりしているけど、どれも本気のパフォーマンスではない。

オーチャード駅からオーチャードストリートをハーバー方面に向けて歩いていくが、この昼間の時間帯はあまり人々は地上を歩かないみたいだ。


なんせ暑い。

汗がぼたぼた流れてシャツが体にはりつく。

みんな冷房の効いたビルの中や地下街にいるので、ここらへんでは路上は出来なさそうだな。


イクゾー君、いい場所発見できたかな。



「金丸さんっていつもこんなに歩くんですか?」


俺の演奏風景の写真を撮りたいとついてきてくれたアンナちゃんが汗だくで尋ねてくる。


「いや、もっともっと歩くよ。路上場所だけじゃなくて夜には野宿場所も探さないといけないし。もちろん荷物全部持って。」


「………私絶対ムリ……」




暑すぎてアンナちゃんが垂れパンダになりかけた頃に、ちょっと良さそうな歩道を見つけた。
ショッピングセンターの前の通路で、声も良く響く。

大通り沿いなので車の音がうるさいけど、まぁやるだけやってみよう。

騒音に負けないように声を張り上げて歌った。










photo:16



ガンガンお金が入る。



中国系、マレーシア系、インド系が入り混じるこのシンガポール。

とりわけ中国系の人たちがめちゃくちゃ笑顔でお金を入れてくれ、ガンバッテ!!とかアリガトウ!!とか日本語で声をかけてくれる。

マレーシア系のムスリムの人たちもフレンドリーだし、インド系はあまりお金は入れてくれないが気さくな会話はすぐに生まれる。


フィリピン人もたくさんいるし、インドネシア人も多い。
日本人もごくたまに立ち止まってくれる。



おおお、なんてこった。

中国人の笑顔が素敵すぎるぞ。

photo:17





今まで中国人と言ったらお金入れてくれない人種の代表選手で、俺のことを銅像のように扱って写真撮って終わりみたいな接し方しかしてこなかった。

ゾンザイだし、酷い時には日本人だからって笑ってくるやつもいた。

一部の仲のいい友達を除いて、はっきり言って中国人に良い印象はない。日本にいたころから。

そんな彼らが今日本人である俺にこんなにも優しく接してくれている。





もちろんここはシンガポールであって中国ではない。
彼らは顔は同じでもみんなシンガポール人としての国籍とアイデンティティを持って暮らしている。

しかしだとしても戦時中に日本軍はシンガポールに対してひどい侵略行為を行っているんだよな。

世界には戦争の遺恨が今だ消えない地がたくさんある。
だからこうしてアジアに入ってきて、少し萎縮してしまう部分がある。


考えすぎなのかな。
どうなんだろう。


でも今日、このシンガポールで歌った限りでは、みんなめちゃくちゃウェルカムだし、若者の中では日本という国が一種のブランドのように捉えられているようにも見えた。


おばちゃんやお爺ちゃんのニコッという笑顔が、とてつもなく沁みる。

だって日本人と同じ顔なんだもん。









警察ではなくショッピングセンターの警備員さんにここではやめてねー、と言われて場所を変え、ドビーゴートという駅の横の博物館みたいな建物の正面階段に座って路上再開。

photo:18



その後、向こうの方に他のバスカーが来て音が聞こえてきたので、もう少し離れた通路に移動。

結局今日は4ヶ所で歌い、実質3時間半の演奏だった。


なかなか騒音があるので声を振り絞ったことで喉が枯れ、ギターを押さえる指にも力がこもって指先が痛い。


シンガポール初日、気になるあがりは、



226シンガポールドル。

1万8千円てとこか。


よし、まだこれからきっといい場所を見つけられるはず。
シンガポール残り10日。
女を買うためではなく、アジアに向けてガッツリ稼ぐぞ。













ヘトヘトになって街の中を歩き、ハーバーにやってきた。

そこには目を疑うようなスケールの高層オフィスビル群がキラキラとまたたいている。

photo:19



走り去る車のテールライトや歩道を照らす照明の列、デザインの凝った街灯、

ハーバーの向こうにはあのマリーナベイサンズがコンピューターグラフィックのようにそびえ立ち、その目の前をクルーズ船が爆音を響かせながら進んでいる。船の上でライブコンサートをやっているみたいだ。

photo:20



湾の水面にキラキラとそれらの街の光がゆらめき、あらゆる色が混ざり合って不思議な感情を連れてくる。

ニュージーランドで見たような星もフィヨルドもここにはないけど、人工物もここまでくるとまた自然に負けないほどの畏敬を抱かずにはいられないな。







今日も観光客でごった返すマーライオン公園に着くと、端っこの方にイクゾー君が座って待っていた。


photo:21




「おーい、お疲れー。今日どうだった?」


「やべぇっす、めちゃいいとこ見つけちゃったっす。150シンガポドルっす。」


「すげぇ!!よし!!飯食おうぜ!!」








電車に乗ってエミさんの家の最寄り駅に行き、近くのスーパーマーケットへ。

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ローカル色たっぷりのスーパーマーケットの表には屋台通りが広がっており、たくさんの人たちでごった返していた。

スーパーで買ってきたビールを持って、ガヤガヤと賑わう屋台の席に座る。
メニューを見ると、全部持ってきて下さい!!って言いたくなるような美味しそうな中国料理の数々。

photo:23




テキトーに注文し、ビールで乾杯した。

暑い太陽の下を歩き回り、1日中歌っていた火照った体に冷たいビールが染み渡って気絶するほど美味い。

そして脂っこくて味の濃いアジアの料理をつまむと額に汗が吹き出る。

photo:24









電灯が照らし出すのは楽しげな人々。

大きな口を開けて笑っているおばさん、
走り回る子供たち、
恍惚とタバコを吸っているおじさん、
美しい肌の美女たち、




どこかで見たような懐かしさがこみ上げてくる。
遠い夏の日の、いつかの夜。


なんて怪しくて、艶かしいんだ、アジアの空気は。

満たされて心が溶けていくようだ。


最高の夜だ。







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ドラッグのような夜

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5月23日 金曜日
【シンガポール】 シンガポール





シンガポールで部屋を借りると最低でも月35万円はするそう。

ハイパー高いのでみんなルームシェアをするわけだけど、それでも6畳のワンルームが与えられて10万円は払わないといけない。

高いね。

車買ったら、なんか車を所有するライセンスみたいなやつを取らんといかんみたいで数年に1回数百万円払わないといけないみたいやし。

シンガポール怖い!!





そんなシンガポールのミニお国情報。



★首都………シンガポール
★人口………540万人
★言語………英語、マレー語、中国語、ヒンドゥー語
★独立………1965年。マレーシアから
★通貨………シンガポールドル
★レート………1シンガポールドル=82円
★世界遺産………なし




かつてこのあたりは現在のマレーシアのマラッカを中心としたマラッカ王国の領土だったが、ポルトガルの侵略により占領され、植民地支配となる。

その後にオランダやイギリスが入り込み、マレー半島の先端で海峡に面した重要な港として発展して急成長したそうだ。

植民地としての役割を最大限に活用していたみたい。

ここまでは今まで回ってきた世界各国の侵略の歴史と同じ道筋。
ずっと見てきた西欧諸国の貪欲で強力な軍事力の歩みだ。

しかしここからが違った。



イギリス領だったシンガポールを攻撃して新たな植民地としたのは、日本だ。

もうここはアジア。日本の暗い歴史から目をそらして旅することはできない。
お爺ちゃんやお婆ちゃんが話したがらなかった戦争の話にこれからきっと何度もぶち当たるはず。


日本はシンガポールを占領し、軍政を敷き、反日と疑わしき者は徹底的に虐殺し、過酷な労働を強い、今までに世界中で聞いてきた残酷な植民地の歴史と同じことをやったそう。


そんな日本による支配も長くは続かず、第二次世界大戦で日本が敗戦するとともにシンガポールから撤退。

しかしすぐにイギリスがまた植民地支配を回復。
その後独立運動の気運は高まり、マレーシア連邦としてイギリスから離脱。

この時期にマレーシア人と中国人が入り混じり独特な民族形成を作り、1965年についにマレーシアから独立してシンガポールとして歩み始めたという流れ。

まさにアジアの激動の渦中の後に出来上がった国。


ここには学校の歴史の授業でオブラートに包んで教えられたそのベールの向こう側が厳然と存在しているんだ。

これからのアジア、マジで覚悟していかないとな………


現在のシンガポールはそんな植民地として虐げられた歴史を払拭するかのごとく世界トップレベルの文明を保持している。

子供の頃から充実した教育を施しているらしく、小学校の時点で学力別にクラスが分けられているそう。
一流の教育を受けて、一流の企業に就職し、経済大国の歯車となり何不自由ない暮らしを得る、という物質的な意味でのこの世界の最上級の生活を手に入れるわけだ。




と、さらっと歴史を調べてみたけれど、アジアというものはまだまったく肌に染み込んではいない。

とにかく、今はこの国がどんなところかはまだよくわからない。


これから12日間、できる限り懐をのぞいてやるぞ。












さて喉が痛い。



あんなに極寒だったニュージーランドからいきなり真夏並みに暑いシンガポールにやってきて、エミさんのお宅はもちろんエアコンが効いている。

体は正直ってことかなぁ………




エミさんのお宅にはルームシェアメイトが2人いるんだけど、この2人がまぁ絵に描いたようなエリートで、シンガポールの経済の中枢にいるようなビジネスマンとビジネスウーマン。

品行方正、襟をピシッと整えた2人なので、イェーイブロー、ロックをロールしようぜー、みたいなノリではもちろんない。

こちらもかなり気を遣う。



最初、俺の宿泊は了解を得ていたんだけど、そこにアンナちゃんもお願いすることになり、それでギリギリなのにここでイクゾー君もってのは到底無理な話。

1泊だけはさせてもらったが、ゆうべはチャンギに戻って行ったイクゾー君。

こう暑くて毎日汗べっとべとになったら毎日シャワー浴びないときついんだが、チャンギ泊ならもちろんシャワーはない、
洗面所で頭を洗えるくらいだ。

イクゾー君だけチャンギってのは申し訳ないが、あいつもそこは分かってくれる男だ。

すまん。






てなわけで風邪で喉がかなりイガイガしているが今日も路上に行こう。

昨日のドビーゴートのオーチャード通り沿いも悪くはないが、まだまだシンガポールはたくさんの街がある。
今日は別の場所を攻めてみよう。

目標300シンガポールドル!!

声出るかな………









photo:01



アンナちゃんと朝ごはんを作ってエミさんと3人で食卓を囲み、出発。


電車に乗って最初に向かったのはラッフルズプレイスという駅。
あのシンガポールの象徴みたいなオフィスビル群のど真ん中に位置する駅で、昨日乗り換えた時に良さそうな地下通路を発見していたのだ。



路上の前にひとまず腹ごしらえ。

テキトーにぶらついていればそこらじゅうにフードコートを見つけられる。
それがマクドナルドとかケンタッキーとかのフードコートではなく、いたって大衆的な中国料理のお店が入った食堂街ってんだから毎回の食事が楽しみで仕方ない。

photo:02



photo:03







うひょおおおおおお!!!!
暑いいいいいい美味えええええええええ!!!!!!

photo:04




汗だくになって5.5シンガポドル、500円の麺を食べて、いざ目をつけていた地下道へ!!


路上開始!!





よし!!全然入らない!!

20分で撤退!!




この国はあれやね、地下道はあんまり稼げんね。
みんな忙しそうに歩いてて。

やっぱりショッピングエリアがいいのかな。








photo:05



場所変えだけど、どこにしようかなーと歩いていたら、こいつがいた。




photo:06



犬も歩けばマーライオンに当たる。





よし、話のネタにここでやってみるか。

観光客がうじゃうじゃとひしめくマーライオン公園の端の通路でギターを鳴らした。

photo:07





シンガポールって道路の看板に英語、中国語、マレーシア語、ヒンドゥー語が書いててめちゃ散らかってるんだけど、たまにそこに日本語が加わってるとこもある。


街を歩けば和民とかぼてじゅうとか日本のレストランチェーン店だらけだし、オーチャードには高島屋まであるし、ここは日本か?と錯覚してしまう。

シンガポールには日本企業がたくさんあり、その駐在さんたちがわんさか暮らしているし、駐在さんのご家族のための日本語学校まであるそうだ。


俺のお父さんもそうだったようにシンガポールは慰安旅行のメッカだし、一般の観光客もビビるくらいいるし、とにかく歩いていたら至る所から日本語が聞こえてくる。



そしてこのマーライオン公園。

もう日本人だらけ。

すげー、オーストラリアもカナダもたくさん日本人いたけど、ここまで日本文化が浸透、というか根付いているとまったく外国って気がしないな。



もちろん日本人だけじゃなく、中国本土からの団体客、インド人、マレーシア人、欧米人もわんさかいるこのマーライオン公園。


しかし観光客はお金を入れてくれない。

ひたすら大撮影会。

みんな俺に向かってiPhoneやカメラを構えて撮るだけ撮って何も言わずに去っていく。


い、いいよ……別に写真撮るなら金入れろとは言わないよ………

でも一言あってもいいんじゃないかな………


まぁこんな背景で歌ってたら撮りたい気持ちも分かるけど。








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すると向こうの方から何やらテレビカメラを抱えた撮影クルーらしき人たちがワラワラとこちらに歩いてきた。

そして俺の方を見てなにやら話している。


あー、今からここで撮影するから邪魔だからどっか行ってってパターンか。

ほらアシスタントみたいな女の人がこっちに歩いてきた。




「ユー、シング、ヒア、シング、OK。」


はい?



なにやらこのままここで歌っててくれとのこと。
音声さんに服の内側に小型マイクを装着される。

え?なにこれ?


とにかく何でもいいから歌ってくれと言われてわけもわからずギターを弾いて歌う。

カメラを向けられているので何かの撮影と思われ観光客たちの人垣が俺の周りを取り囲む。

どこの有名シンガーだ?みたいな雰囲気。





するといきなり横から陽気な兄ちゃんが踊り込んできた。


「イェーイ!!フッフウウウウウ!!!ペラペラペラペラペラペラペラペラーーー!!!!!」


俺の横に来て腰を振りながらコミカルに踊っている。
そしてひたすら謎の言語で俺にからんでくる。
謎すぎてポカーンとすることしかできない。


オノレは何者ぞ?
東南アジア的な甘い目尻のチャーミングな顔しやがって。



ていうかただのイチ風景としてじゃなくてこんなにガッツリ絡むんだったら少しは演出教えてくれ(´Д` )





俺にとっては謎の状況でしかないんだけど、どうやらこの横で踊っている甘い顔のお調子者がなかなかの有名人なのか、人だかりがすごいことになる。

しかもみんな頭にカバーをかけたムスリムの人たちばかり。

ムスリムに取り囲まれる日本人のギター弾きとハンサムボーイ。




撮影中なのに観衆の人たちが俺たちの横にやってきてピースして写真撮ったりしてるのでなかなかいいテイクが撮れず、何度も歌い、何度も兄ちゃんが俺に絡みまくるというシーンを繰り返し、5テイクくらいでようやく監督のOKが出た。




「名前なんていうの?」


「俺Billy syahputraっていうんだ。結構有名なんだぜ。じゃあ頑張ってな。」


どうやらインドネシアの有名人らしい。
撮影を終えたビリーはムスリムの人たちにワーワー写真をお願いされ、笑顔でそれに応えている。

俺の目の前で。

もちろん俺のことはゲロ無視ですけどね。

photo:09



photo:10












気を取り直して、そこから2時間くらい歌った。

マリーナベイサンズの巨大なビルが夕日に照らされ金色に輝き、次第に色を失うと今度は明かりが灯り、夜にそびえる光の塊になる。

そんな美しいトワイライトがシンガポールの街を包み込む中雰囲気よく歌うが、みんな写真を撮るだけでなかなかお金は入れてくれず、夜になって疲れてギターを置いた。

photo:11




喉が痛いな。鼻水も出てくる。
今日はこの辺にしとくか。


あがりは、

50元
10香港ドル
20000インドネシア
20フィリピン
73シンガポールドル


もうわけわかんねぇ。










photo:12



それから少し散歩してみようとビル群の足元を歩いて街の中へと入ってみた。

金曜の夜のオフィスビル街はたくさんの仕事帰りの人たちが忙しそうに行き交っている。


そんな無機質なコンクリートの中を歩いていくと、いきなりものすごい賑わいを見せる通りを見つけた。

細い道にどこまでもバーやレストランが並び、道路にテーブルが出されてうじゃうじゃと凄まじい数のビジネスマンたちがビールジョッキをあおっていた。

photo:13




熱気が立ち昇るようなその通りはボートキーという場所で、シンガポールのビジネスマン、とりわけ白人たちが目立つ繁華街のようだ。
日本でいう新橋のような、親しみのある雑然さにとてもワクワクしてくる。

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そこから綺麗に造成された川沿いのウォークウェイを歩いていく。
センスの良いバーやカフェが散らばり、たくさんの人がデッキや階段に腰かけて夕涼みをしている。


このあたりがシンガポールのネオン街なのかな。

と思ったら全然違った。




そうだよ、シンガポールはビルでもハーバーでも空港でも駅でも、なんでも超一流のやりすぎくらいのものを作ってしまう。

そんなシンガポールの飲み屋街がただ事で済むわけがないんだよ。







そこには狂気みたいなネオン街が広がっていた。

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川沿いに広がる巨大な建物、全てがレストランやクラブ。

歩行者用の橋を渡ると、屋根のかかったアーケードの飲み屋街となり、ものすごい人で溢れかえっていた。


屋根も壁も、柱もライトも、全てが近未来的な奇抜なデザインで統一されており、とても不思議な空間を作り出している。

光がまたたき、爆音が轟き、誰もが笑いながらグラスを傾けている。


やっぱシンガポールはすげぇ。
なんでもとことんだな。

photo:20






この辺りをクラークキーと言い、日本の六本木あたりのイメージかな。

人ごみはすごいことになっているが、あまりにうるさいし俺の雰囲気ではない。
ここで路上はやりたくないな。





と歩いていたら、そんなクラークキーのレストラン通りでなにやら人だかりを作ってるパフォーマーがいた。

覗いてみると、そこには水晶玉を宙に浮いているように見せるクリスタルのパフォーマーさんがいた。

このクリスタルボールは人気のジャグリングで、世界中どこでも見かけることができる。

しかしこの人は他の人がそうするようにただ突っ立ってやるのではなく、音楽をかけてダンスしながら見事に水晶玉を指先で転がしている。

落としたら水晶玉はもちろん割れる。
そのスリルが見事に演出されている。


魅せ方のクオリティの高さ。

きっと長い路上経験の中で技術を磨いてきたんだろうな。


驚いたのはこの人が日本人だったということだ。

みんな頑張ってるな。

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シンガポールの夜の熱気に頭の中がまどろむ。
飛び交う光が混ざり合い、ねっとりとした夜の闇を切り裂き、誰もが夢を見ているようだ。


夜風の生ぬるさ、喧騒、光の渦、


まるでドラッグみたいに背徳的な魅力に満ちた街だ。
こりゃ虜になる理由も分かるな。






さ、帰ってイクゾー君とアンナちゃんに連絡して一緒に飲もうかな。


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シンガポールの虜

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5月24日 土曜日
【シンガポール】シンガポール






喉が痛い。

風邪が治らない。


暑い国でエアコンの効いた部屋で眠れるのはとてつもなくありがたいことだけど、体には負担になってる。

イクゾー君の話ではシンガポールはまだマシな方で、これからマレーシアにのぼったらさらに暑くてムシムシとした湿気と熱気に包まれるんだそうだ。

それこそがアジアなんだろうけど、灼熱と喧騒の日々になりそうだな。

食べるものとかにも気をつけないとすぐお腹壊してしまいそうだ。









エミさんのお仕事は土日が休みのものではなくシフトによるものだそうで、次の休みは月曜日だそう。

エミさんの出勤に合わせてみんなで家を出た。









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photo:02




「あー、金丸さんおはようございますー。」


途中、チャンギ空港から出勤してきたチャンギのヌシ、イクゾー君と合流して、一緒に向かったのは最近イクゾー君が大活躍しているというチャイナタウン。

1ヶ月前にシンガポールに来た頃は30ドル稼げれは良かったような状況だったのに、最近では連日150ドルオーバーを叩き出しているというこのチャイナタウン。

警察も来ないし他のバスカーもいないし、中国人たちはみんなめちゃくちゃ優しいし、最高ですよ!!と言うので少しどんな雰囲気か見に行くことに。

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やってきたチャイナタウンの街はやはりシンガポールの中にあってより中国色の濃い建物が多い場所だった。

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まぁシンガポールってはほとんど中国人で構成されているような国なので、その中でチャイナタウンってのもおかしな話だけど、ここにはより本土の中国に近いディープさがあるよう。



「ご飯食べましょう。いいとこありますから。」


もはやチャイナタウンも知り尽くしているイクゾー君が連れて行ってくれたのは地元の人で賑わう食堂。


「ハローママー、お腹空いたー。」


「コンニチハ!ナニタベル?トモダチモイッショダネ!」


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完璧に中国人なんだけど、片言の日本語を喋るおばちゃん。
どれにする!?と横でわーわーと教えてくれるその雰囲気はただの日本のお節介おばちゃん。


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今だにドギマギしてしまう。中国人ってのは日本のことが嫌いなんじゃなかったのか?

日本人ってだけで顔をしかめられるんじゃないのか?

でもおばちゃんの笑顔はまるで同じ中国人に向けられるような親愛の色を含んでいるし、むしろ日本人というだけでお世話を焼いてくれるような特別な優しさがある。


じんわりと胸が熱くなるところで、このご飯。

こんなにてんこ盛りでたったの4シンガポールドル。340円。

美味い!!と言う俺たちにニコニコと笑うおばちゃんや他のお客さんを見ていると、確実に俺の中の中国に対するイメージが変わっていくのを感じる。

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大満足でお店を出ると早速路上ポイントへ向かうイクゾー君。

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この歩道橋の上が1ヶ月間、この街を彷徨って死に物狂いでイクゾー君が見つけ出した最高のポイント。


歩道橋の真ん中にギターとバッグを置き、ササっと準備をして迷いなくギターを弾き始めるまでになんの躊躇もない。

そして歌い始めた瞬間、お金が入った。

おじさんが立ち止まり、イクゾー君の前で目を閉じて気持ち良さそうに微笑んで歌を聴いている。

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もちろん、たったの1ヶ月で歌がめちゃくちゃ上手くなるなんてことはない。

でもその堂々した雰囲気や迷いのない演奏には確実にあの頃よりも人を惹きつけるものが備わっていた。


苦労したんだよな。
めちゃくちゃ分かるぜ。















そんなイクゾー君にまた夜に会おうと約束して俺も俺の路上へ。


昨日やった場所はどこも反応が悪かったので、他の場所を探そうかと思ったが、ここは初日に雰囲気の良かったドビーゴートの階段広場を攻めることに。



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オーチャードで駅を降りてボチボチと街を見ながら歩いて行くが、やっぱりこのオーチャード通りのラグジュアリーさにはめまいを覚えそうになる。

えげつないほどに軒を連ねるルイヴィトンやプラダなどの宮殿みたいなショップたち。

そそり立つ奇抜なデザインのビルディング、大型スクリーンが音楽を垂れ流す。

颯爽と歩いている人々はモデルのように美しく洗練されており、様々な人種が入り混じっている。

この国に生きる人々が全てエリートで構成されているような、そんな気さえしてくる。

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この爺ちゃんハンパじゃなかった。

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暑い日差しに汗だくになってドビーゴートの美術館前に着いた。

おとといここでやった時、向こうの広場の方にスピーカーで爆音を鳴らしながらサックスとウクレレのパフォーマンスをしているコンビがいたけれど、今日は土曜日だからか他のパフォーマーの姿はない。


よーし、日陰がなくて灼熱地獄だけど、今日は俺の独壇場だ。

壊れかけの喉から思い切り声を絞った。









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白人の子供ってのはとっても可愛い。

真っ白い肌でブロンドの柔らかい髪の毛、青い瞳と赤い唇。

教会の壁画に描かれているエンジェルそのまんまといった清純がある。



南米の子供も可愛かった。
浅黒い肌でニコニコと笑い、元気いっぱいに駆け回り、思わず抱きしめたくなる懐こさがあった。





こう、ずっと世界中いろんなところを回ってきてアジアと離れて生活していると、アジアに比べて他の国のいいところってのがたくさん見えてくるもの。

ヨーロッパや南米はこんなにいいところなんだなーって旅の中で感じてきた。
アジアはまだまだだなぁと思わずにいられないところがよくあった。



でもやっぱり、今感じる。

アジアの子供の可愛さが特別な感情と一緒にこんなにも胸を締めつけてくるのは俺がアジア人だから。

若者たちも、おばちゃんも、むすっとしたおじちゃんも、なんだか全てが愛らしく見えてくる。

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なんだろう、この感覚。
欧米ではどんなに友達が出来、どんなに町に溶け込んだと思っても、薄い膜が俺と文化の間に存在していたように今になって感じる。


ここは全てが体に馴染む。

人も、飯も、空気も、こんなつっけんどんな街でさえ、全てに呼吸が合う。


やっと帰ってきた気がする。

アジアを最後にとっておいてよかった。
こんなに愛しく感じられるなんてな。

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夕方19時。
汗で身体中ベトベトになり、喉と指が痛くて限界になりギターを置いた。

あがりは273シンガポドル。2万3千円てとこかな。



荷物を片づけて電車の駅に向かうと、隣のショッピングモールの広場でおじさんが二胡を弾いていた。

ラジカセで音楽を流して、それに合わせて主旋律を弾いている。

あまり上手ではないが、夕暮れに響くその二胡の音色がとても美しくて、箱の中にコインを入れた。

するとおじさんは、アー、と俺のことを見て何か思いついたようにラジカセをいじり、音楽を変えた。

そしておじさんは胸を張り、顎を引き、大げさな動きでリービングオンアジェットプレーンを弾いた。

俺がさっき歌っていた曲だった。

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それから他の場所でバスキングしていたイクゾー君と合流。

エミさんの家の近くのホーカーへ行き、今夜も火照った体にビールで乾杯した。

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ホーカーというのはいくつもの屋台が並ぶ食堂街のこと。店の前にたくさんのテーブルが並べられ、地元の人たちで賑わうこれぞアジアといった庶民のお食事処だ。


どこのホーカーもいつもたくさんの人が集まっており、そのお祭りのような活気はそこにいるだけで夏の縁日の夜を思い出させてくれる。

料理の値段はどれも2~5ドルととても安価でいくつものお皿を注文して居酒屋のように楽しむことが出来る。

しかもそれが全部漏れなく美味いんだもん………

天国でしかないよ…………

photo:25




でもドリアンはいらない。

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え?なんで買わないの?アホなの?みたいな顔を毎日された。










「いやー、シンガポールヤバイですね!!もうここ住もうかな。中国人めちゃくちゃ可愛い!!」


「あー!アジア最高ー!!」


辛い料理に汗がダラダラ流れ、それを服で拭って冷たいビールをあおる。

パクチーの香りが鼻をくすぐって、苦手だったことが嘘みたいに美味しく感じる。





もはや完全にシンガポールの虜。

心が解き放たれていくようで、思わずのけぞって夜空を見上げた。







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5月25日 日曜日
【シンガポール】 シンガポール





今日まで路上やったら休もう。


風邪がかなりきつい。
喉も指も限界だ。

エミさんも明日とあさってがお休みらしいので、のんびりとシンガポール観光でもしよう。






チャンギに泊まっているイクゾー君にメールをしたら、俺今日は休みますという返事が返ってきた。
イクゾー君もずっと毎日やってたみたいだからな。

イクゾー君やらないならチャイナタウン試していい?と送ると、すぐにもちろんですよと返事が来た。

今日はイクゾー君の拠点でやらせてもらおう。








電車をいくつか乗り換えチャイナタウンの駅に到着。

まぁまぁ大きな駅なので地上に上がる出口もたくさんあり、どこがイクゾー君が歌っている歩道橋への出口か全然わからない。

まぁなんとかなるかとテキトーに目についた階段を上がった。

そして外に出た瞬間、まだボーッとしていた頭が興奮で一気に冴え渡った。








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そこには広大なマーケットが広がっていた。

何百という露店が立ち並び道路を狭め、せり出した軒が空を覆い隠し、人々がその隙間を行き交っている。

中国的な極彩色の建物、提灯のような飾り付け、通りを埋め尽くす漢字の看板……


しばらく呆然とした後我にかえり、はやる気持ちを抑えてその迷路のようなマーケットに潜り込んだ。




photo:03



どこまで続いてるんだ?と思えるほど露地という露地がすべてマーケットになっており、まったく出口が見えない。
レストランもカフェもあるし、衣料品店、中国の筆や印鑑などの小物屋さん、

まぁとにかく雑然と様々な物が並んでおり、その統一感のなさが逆にこのチャイナマーケットの怪しげな魅力を演出している。

まさに映画の中でしか見たことのない中国のディープなマーケット。

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ドキドキが止まらなくて、もう勢いで適当にそこらへんにあった地元の人で賑わっている食堂に入ってみた。

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店先にぶら下げられたチキンの丸焼きを店主のおじちゃんが木の切り株みたいなまな板の上でザクザクと分解していく。

大きな包丁をまな板に振り下ろすたびに、このおじちゃん独特の小気味のいいリズムが店内に響いて、きっとおじちゃんは毎日毎日ずっとここで1日中チキンを分解しているんだろうなと想像させる。


「何がいいんだい!」


めちゃくちゃ怖い顔のおばちゃんに早く決めろと迫られて、あたふたしていたら私が決めてやるから大人しく待ってな!!と言われる。

そして出てきたのこれ。


photo:07



ビーフンにチキンをのっけたやつと、餃子スープ。
5.5シンガポールドル。450円くらい。


うめえぇ!!!
ていうか暑ぃ!!!


狭い店内にはむわりとした熱気がこもって箸を動かすだけで汗がダラダラ流れてくる。

周りのお客さんたちもみんな笑顔でそのチキンを食べている。

うー、すげぇ、世界中のチャイナタウンに行ったけど、ここのチャイナタウンが今までで1番中国だ。








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もう少し探検したかったけどやるべきことはやらないとな。

昨日の歩道橋へと行き、ギターを取りだす。

日曜日だからか周りの建物に入っているショップが結構閉まっており、昨日みたいな人通りはない。


まぁ仕方ない。
今日は喉も痛いしゆっくり歌おうと、リラックスしてギターを弾いた。

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この歩道橋を通る人はほとんどが中国人。ごくたまに白人が通るくらいでインド人もマレー人もいない。

そしてやはり中国人の笑顔の優しいこと………


俺たちが顔を見るだけで、あの人は中国人だなと分かるように、中国人も俺の顔を見て日本人だと分かるよう。

そして歌ってる俺が日本人だと分かると、急にみんなのオーラがふわっと柔らかくなるのを感じる。

中国本土はわからないが、ここシンガポールの中国人たちからは日本人に対しての反日感情は今のところまったく感じない。


女の子超可愛いし。

1人のチャイニーズシンガポリアンのおじさんと仲良くなり、色々とこの国について教えてもらった。

今度ご飯食べましょうと約束もできた。

ああ、こりゃ12日程度じゃこの国の懐の深さは全然わからないな。

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喉と指が限界に達して2時間ほどでギターを置いた。

あがりは159ドル。

1日やれたらこりゃかなり稼げるな。
警察の心配もないし、ライバルの地元バスカーもいない。

イクゾー君、いい場所見つけたな。





そういえばあいつ今日何してるのかな。
シャワー浴びてないからセントーサ島に行ってるかもな。

セントーサ島ってのはマーライオンがいるハーバーあたりからポコんと海に飛び出した小さな島で、島全体がひとつのテーマパークのようになっているこのやり過ぎ贅沢大国のシンガポールの数少ない遊び場のひとつ。

ビーチがあるのでそこに公衆シャワーがあるらしく、イクゾー君はたまにそこに体を洗いに行ってるとのこと。

まぁたまにはお互い別行動もいいかな。









よーし!!もう体もボロボロだから明日とあさっては休んでのんびりシンガポール観光に充てるぞ!!

このままエミさんの家に帰ってゆっくりしよう!!


と、その前に行きたい場所がある。

ギターとバッグをかついで歩道橋を降りた。









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やってきたのはさっきのチャイナマーケット。

もう1度この通りを探検してみたかった。

夕方になり通りに電灯がともり、お昼のあの猥雑な雰囲気が一気に怪しげな華やかさをまとい、誰もが楽しそうに歩いていた。

まるで地元のお祭りの夜に学校の好きな女の子を探して歩いたような、あのドキドキした期待感。

この通りの向こうにはどんなものがあるだろう。あっちの路地にはどんな光景があるだろう。

この迷路の中に混じっていると不思議な魅力にほだされるようだ。

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そしてしばらく大きな屋台通りを奥へと進んで行くと、何かの音が聞こえてきた。
スピーカーから流れる音楽のよう。


音に向かって人をかきわけて進んでいくと、屋台が途切れてパッと視界が開けた。

そして思わず笑顔になって声をあげてしまった。





photo:16



そこには大きな広場があり、たくさんの人たちが音楽に合わせて踊りを踊っていた。

そして正面には人生で初めて見る中国式の大きな仏教寺院がたち、それはあまりにも懐かしい日本の光景だった。

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広場いっぱいに広がって踊る中国人のおじちゃんおばちゃんたち、脇の憩いのスペースでは見たことのない中国の将棋みたいなゲームを真剣な顔でやっているおじちゃんたち。

夕涼みで座ってお喋りをする人々………

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なんだろうこの昂ぶる気持ちは!!

胸の奥から湧き上がる高揚感に飛び上がりたくなる。


今まで色んなところに行った。
教会、モスク、様々な宗教の地を見てきた。

そして今、この目の前にあるのは日本で生まれた時から慣れ親しんでいた仏教の光景。

それがあまりにも新鮮な驚きと色彩で脳みそを刺激した。

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この光景の中で育ってきたはずなのに、どうしてこんなに感動しているんだろう。





また新しい場所に来れた。

アジア、ここは故郷であり、そして最も遠い場所だったんだ。

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体はだるいが深い充足を持って1人で電車に乗ってエミさんの家についた。

シャワーを浴びてベランダでタバコを吸いながらビールを飲んだ。

ああ、明日はゆっくり休むぞ………







メールをチェックしていると、イクゾー君から連絡が来ていた。

一緒に飲みましょーっていう内容だったけど、もう2時間も前に送られていたものだから、俺からの返事がなくて今頃チャンギに帰ってるだろうな。

インターネットがオンラインになっていたので電話をかけてみた。




「おーい、今日なにしてたの?」



「あ、お疲れ様ですー。今日はセントーサ島にシャワー浴びに行ってました。そしたらセントーサでカジノ見つけたからちょっとやってみました。」



「あ、そうなんだー。買った?」



「負けました。いくら負けたと思います?」



「え、何その言い方……怖いんやけど………30……いや50ドル……くらい?」




「400ドルです。」




「……………」




「持ってたシンガポールドル全部負けました。ブラックジャックです。最初10ドル負けて、あれ?ってなってもう10ドルいって、あれ?ってなって気がついたら400です。今ほど昨日に戻りたいと思ったことありません。」






………え……何この人……怖い……





「で、でも、まだもう少しお金あるんやろ………?」



「外国のお金が250ドル分あります。」



「そっか、じゃあとりあえず大丈夫だ…」



「さっき全部シンガポールドルに替えました。」



「……………」



「250ドルをルーレットの赤黒に賭けたら1回で500ドル、次も全額いって1000ドルです。明日勝負かけます。」





え………

この人頭がトチ狂ってるのかな………





「ま、マジで言ってるの……?」



「もちッス。冗談抜きでブラックジャックで負けて席から立ち上がったんですよ。そしたらベルトが壊れたんです。400負けてベルト壊れたんです。えー……ですよ。今ズボンゆるゆるです。ここで引けねーっす。」



「…………………よし!!俺見届ける!!一緒に行っていい!?」



「俺の生き様見ちゃってください。」



「もうすげーよ!!勝っても負けても伝説だよ!!誰もかなわねぇ!!」



「伝説作っちゃいますよ。もう高橋歩とか2秒ですよ。植村と並んじゃいます。」





この男はどこまで自分を追い込めば気が済むんだ。

ギター歴10ヶ月のレパートリー9曲、路上経験なしの所持金2千円で日本を出てきたイカれたこの男。

オーストラリアを食パンで生き抜いた最低辺の旅から、いきなりカジノで全財産勝負とかネタのための人生みたいなやつだ。




「お前はマジですげぇ!!こんなに明日が楽しみなのって久しぶりだよ!!」



「俺も眠れないです。ていうかカジノってコーヒーが無料で負けた腹いせにコーヒー4杯飲んだから眠れないです。チャンギでずっと起きてます。」



「あ!そうだ!今日チャイナタウン行ってきたんやけどさ!!明日カジノに行く前に占い行こうよ!!マジの中国のやつ!!それで賭けを占ってもらおう!!」



「今すぐ日本に帰った方がいいって言われたらどうするんですか。」





小林イクゾー

明日


生きるか、死ぬか








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小林イクゾーという生き様

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5月26日 月曜日
【シンガポール】 シンガポール






小林イクゾー、死刑の日。


自ら死刑台へと向かう男の顔。


これ。






photo:01






「おはよー。」



「お、おはようございます。伝説になる男小林イクゾーです。やべー、勝つところしか想像できねー。」




「いやー、俺もそんな気がしてきたよ。ていうか荷物どうしたの?ゆうべチャンギに泊まったんやろ?」



「あ、チャンギに置いてきました。絶対バレないとこあるんで。チャンギ、ツレんちみたいなもんなんで。」



「ははは。朝から面白いなぁー。あ、電車来たね。乗ろう。セントーサってどうやって行くの?」



「ハーバーフロントってとこまで電車で行ってそこからモノレールです。でも景色綺麗なんで歩いてでいいと思いますよ。」



「さすがに知り尽くしてるね。」



「当たり前ですよ。賭け師小林とは僕のことですよ。」



「まぁ負けてもね、ふりだしに戻るだけだもんね。最初シンガポールに入った時いくら持ってたんだっけ?」



「2リンギなんで、60円くらいですね。そうなんですよ、全部失ってもふりだしに戻るだけなんです。まぁ窓ガラス4枚くらい割るかもしれないですけど。」








昨日カジノで有り金650ドルのうち、400ドルを一瞬のうちに失った世界一周中のはずの旅人、小林イクゾー。

あろうことか残りの外貨を全てシンガポールドルに換金してルーレット2本勝負のリベンジに行くという、無駄に冒険魂がえらいことになってるもはや何をしに海外に出てきたのかまったくわからない状況のサムライの後についてハーバーフロントの駅に着いた。





「先にご飯食べてから行こうよ。」



「あ、いいっすね。向こうにフードコートあったんでそこで食べましょう。何にしようかなー。」



「ここはおごるよ。軍資金に手をつけたらゲンが悪いからね。見学料ってのもあるから。」



「マジっすか!!いただきます!!じゃあ俺カツ丼にします!!カツ丼でカツ!!」




photo:02



腹ごしらえを終えてコーラを飲んで、死ぬ準備は整った。

ついに2人はセントーサ島へと乗り込んだ。

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「うわー、すごいね、ただのテーマパークだね。島の入場料で1ドルかかるんだ。」



「そうっすね、だから僕のシャワーはいつも1ドルってわけです。」



「へー、ユニバーサルスタジオとかあるんだ。」



「まぁ僕には無縁ですけどね。あ、カジノに行く前にちょっと寄りたいとこあるんですけどいいですか?」



「あ、うん、いいよ。どこ?」









photo:07



「マーライオン様ーー!!!頼みます!!!!俺に力をーーー!!!!」











photo:09



photo:10




き、来ちまった………

小林イクゾーの死地…………






「ほ、本当にやるの……?イクゾー君、今ならまだ間に合うよ………」



「金丸さん、この後船に乗ってシンガポール湾をクルーズしましょうか。白人の金持ち向けのやつ。あれいきましょう。酒飲みながら伊勢海老とか食べて、遠くの方から手を振ってる人に余裕で手を振りかえすんですよ。やっべー、よしこれでいきましょう!!」



「な、何言ってんだよ………富士市出身なんやろ…?昔落ち葉吸ってたんやろ?一回冷静になろうよ………」


「本当に何しようかな。南極とか北極に行くってまぁきついことしに行くだけじゃないですか。なんかそういうのと違うんすよねー。なにしようかな。もうデリヘルの店長になろうかな。」



「本当にやめたほうがいいって…………」



「そうだなー、勝った金でサグラダファミリアの建設に加わろうかな。いや、もうコバヤシファミリア作っちゃうってどうですか?うわー、なんかさっきからゲロ吐きそうなんですけど、なんでですかね?」



「………で、や、やっぱりルーレットなの……?他の固い勝負のやつとかないの……?ほ、ホラ、あそこの大小ってやつとかどう!?アジアのゲームっぽくていいやん!!」



「金丸さん、男は赤か黒、2択です。シンプルが1番なんです。やっべー、勝ったら整形しようかな。」





スタスタと歩いていくイクゾー君。

きらめく照明やふかふかの絨毯、大理石のフロアー。

贅の限りを尽くしたカジノ内の雰囲気に確かに5ドルなんて紙切れのように思えてくる。

ラスベガスのカジノがどれだけ庶民的なものだったかと思わされる。

別に圧倒されているわけではなく心臓がバクバクと音を立て、手汗がにじむ。

だって今から1人の旅人の命運が決まるんだから………








「金丸さん、これがルーレットです。」



「こ、これなんだ………たくさん卓があって、みんなそれぞれに賭けてるんだね………」



「そうっすね、あそこの真ん中でルーレットが回されてこの卓のモニターにルーレットが表示される仕組みっす。」



「ね、ねぇ……イクゾー君……やっぱりやめたほうがいいんじゃないかな……まだ250ドルあるんだから美味しいもの食べてまた明日から路上頑張って少しずつ貯めていけば、」



「よし、じゃあいきますか。」




ウイ~~ン



卓が250ドルを吸い込んだ。

そしてモニターに250ドルという表示がついた。






「ちょ!!ダメ!!ダメー!!あー!!怖すぎる!!見てられない!!」



「金丸さん、見ててください。」



「待って!!最初は20ドルくらいから行くんだよね!!?オーストラリアで食べてたラーメンを4ドルの醤油にするか5ドルのトンコツにするか悩んでたあの頃思い出しなよ!!」



「俺はもうあの頃の俺じゃないっす。金丸さん、骨拾ってください。」






タンタンタン…………



イクゾー君の指がボタンを3回押すと250という数字がマットの上に表示された。



これまでのルーレットの出目は、







ゼロ







イクゾー君が賭けたのは…………























「あああああああ!!!!やっちまった!!やっちまったあああああ!!!!!」



「金丸さん!!いきますよ!!!ルーレットにインです!!!」






よくゲームやテレビで見たことのあるあのルーレットが回り、白い玉が投入された。







「あああああ!!!!!心臓がどうにかなりそう!!!!もうだめだ!!!!」



「こいこいこいこいこいこいこい………………」







ルーレットの淵を回っていた玉が遠心力を失っても数字版の上に転がり落ちた。


踊るように弾けながら玉は動き回る。

わずかに数秒の時間のはずなのに永遠のように長く感じられ、心臓の鼓動が聞こえ、視界が鮮やかになる。

これがまさにギャンブルによるアドレナリンだ。

俺でさえこれなのに、全財産をぶち込んでるイクゾー君はどんなものが見えているのか。
ここ静岡じゃねぇのに。








カラカラカラカラー……………











コロンコロンコロン…………













コロンコロン…………












玉は……………













黒にスポリと入った。









ガタン!!!!




立ち上がって無言のガッツポーズ。
多分今年で1番のガッツポーズ。

モニターに500ドルの数字が表示された。







「い、イクゾオオオオ!!!もうだめだ!!もう行こう!!お前はよくなった!!これで十分だ!!お前は高橋歩は超えた!!行くぞ!!」



「金丸さん、ダメっす。旅するなら、男なら………植村越えっす。」






イクゾー君の指がボタンを5回押した。

そして500の数字の書かれたコインが卓に置かれた。




イクゾー君が選んだのは…………



























「ぎゃああああああああ!!!!!!もうダメだ!!!もうダメだよ!!!心臓がどうにかなる!!!オシッコ漏れそうだ!!!」



「こいこいこいこいこいこいこいこいこいこいこいこいこいこいこいこいこいこいこいこいこいこいこいこいこいこいこいこい…………」










賭け時間が締め切りになってしまった。

玉が……………




ルーレットに入った。










まるでスローモーション。






勢いよく回る白いボール。








静寂のルーレット会場。



他のギャンブルコーナーからの音が聞こえてきているはずなのに、何も耳に入って来ない。


誰もが口をつぐんで卓に座ってモニターを眺めている。

音が消え、水を打ったような静けさが頭を支配する。



もはや椅子に座ることなど出来ない俺たち。



イクゾー君は椅子の影に隠れて目だけを出してモニターを見つめている。


俺は画面に顔を近づけて玉の行方を凝視する。








玉が数字版に落ちた!!!!









「こいこいこいこいこいこいこいこいこいこいこいこいこいこい…………」



「頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む……………」













コロンコロンコロンコロン…………











コロンコロンコロン………








カーン


コーン
















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「ヤッホオオオオオウウウウウ!!!!」



「オヒョホオオオオオアオオアオアオオ!!!!!!!」



「やっべぇ!!バーベキュー美味えええ!!!!」



「イクゾー君おめでとー!!」



「イクゾー!!ユーアークレイジー!!」



「クレイジージャパニーズ!!」



「アイム、ノット、クレイジー、ベイベー!!」



「すげぇ!!イクゾーが英語喋れるようになってる!!」



「イクゾー!!ハッピーバースデー!!」



「ハッピーバースデー!!」



photo:18





「え!?ええ!!?なんすかそれ!??」



「イクゾーこの前誕生日だったやろ!!おめでとう!!」



「おめでとう!!イクゾー!!」



「うわあああ!!よし!!俺今から風俗行ってきます!!」







小林イクゾー。

結構世界一周できるかもしれない旅人。







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イクゾー、ヴィトンを買う

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5月27日 火曜日
【シンガポール】 シンガポール






小林イクゾー、奇跡の勝負から一夜明けて………





エミさんの部屋で4人で目を覚ました。


うーん………ゆうべ飲みすぎたか………若干気持ち悪い。



フィリピン人の女の子たちがめちゃくちゃエロくて、韓国人の女の子が可愛くて、楽しくって結構飲んでしまった。


相変わらず喉は痛い。少し頭痛もする。
痰がからんでいるので快方に向かってはいるんだろうけどなかなか治ってくれない。








ボーッとベランダでタバコを吸う。
いまだに昨日のあのカジノでの興奮が収まらない。
全財産を2回連続でルーレットにぶち込んだイクゾー君のクソ度胸と決断力、勝負運はどれも俺にはないものだ。

あいつはきっと大物になるだろうな。どんなことでもタダでは転ばない最高に面白い男だ。



「あ、金丸さん、おはようございますー。朝ごはんは何かなー、んー、僕朝はキャビアって決まってるんですよね。」




ムカつく(´Д` )



「今日は何しちゃいます?クルーズですか?それとも整形ですか?うわやば、あと2回勝ったらギブソン買えるな………」



「イクゾー君、もーうやめとこ。」



「そうっすね、僕もそこまでバカじゃないです。」






ゆうべのバーベキューの残りをみんなで料理して朝昼ご飯を食べた。

アンナちゃんは相変わらずテキパキ動いて綺麗にしてくれる。

さすがはオーストラリアのホームステイでハウスキーパーの腕を磨いた女の子。

よし!!後ろからおっぱ……というのは冗談ですよ山梨県のみなさん。マジでごめんなさい。


アンナちゃんとはまったく関係ないんだけど、エミさんの話ではシンガポールの人たちはとにかく金持ちで、そして性に奔放なんだそう。
一夜限りのお持ち帰りなんて当たり前。カップルたちによるスワッピングなんてのもみんなやってるんだそう。

もう金がありすぎて普通のことでは満足いかなくなってしまったんだろうな。


ていうことはエイズが蔓延してるんじゃないか?という心配があるわけだけど、そこはさすがエリート主義国シンガポール。
ビザの更新のたびにエイズの検査があるそうで、もし陽性ならばシンガポールからさようならなんだそうだ。

他にも、例えばシンガポールにあるカジノにシンガポール人が入ろうと思ったら100ドルの入場料がかかる。
でももちろん外国人は無料で入れる。
なのでシンガポール人はあまりカジノには行かない。

つまり破産の元凶であるカジノから大事な国民を遠ざけて外国人からむしり取ろうというわけだ。





今日はそんなシンガポールで、当たり前に、普通に、お買い物とお散歩だ。

エミさん、俺、イクゾー君、アンナちゃんというダブルデートの図が完成。


え……な、なに………このエロいやつ………
アンナちゃんのおっぱい揉みたいんですけど………


よし!!アンナちゃん!!
スワッピングでおっぱいを………!!

photo:01







はい、アンナちゃんは明後日からミャンマー行くらしいです。
ミャンマーって何があるんですかね。なんか孤児院かなんかに行くみたいです。
ボランティア好きですね。



「イクゾー君はボランティアとかしないの?」


「え?ないっす。金丸さんはしないんすか?」


「しないかな。なんかボランティアって響きが嫌なんだよね。」



いや、もちろん素晴らしいことですよ、という言い訳を入れといて、

ボランティアってなんかこう、上手く言えないけど俺の中で、してあげる的なイメージから抜け出ないところがあって、もっと普通に、自然に関わって、ボランティアなんて名前のつかないものでありたいな。

もちろん素晴らしいことだけどね。








photo:02



というそんな4人でやってきたのはエミさんがよく来るという郊外のショッピングモール。

郊外といってもシンガポールは狭い国なので山手線みたいな駅が全体をカバーしていて、どこの駅もたくさんの人がいる。

ここタンピネスの駅にもうじゃうじゃと人がひしめいていて、通路ごとにバスカーがパフォーマンスを繰り広げている。

photo:03









そしてなんつってもこのショッピングモール。
ビビるほど日本のお店が入っている。
マジでここ日本?って錯覚する。


ラーメン屋さん、回転寿司屋さん、無印良品、ダイソー、


別にこのタンピネスが日本人街っていうわけではない。
シンガポールでこれが当たり前なのだ。

日本企業が多く支店を置き、日本のものが溢れ、日本のブランドが重宝されているこのシンガポールにいると、これからのアジアにおける日本の立ち位置ってやつがすごく興味深いな。




「さてと、金丸さん、何買い物するんですか?」



「え、うーん、とりあえずエミさんがダイソー行きたいみたいだから行ってみようか。」



「ほっ!ダイソウ……ですか。あれ?ていうかダイソーってなんですか?僕とか高島屋でしか買い物したことないんで。なんかすんません。チュっす。」




ムカつくわー!!と大笑いしながらデパートの5階に上ると、まさに日本とおんなじ100円均一のダイソーがあった。


photo:04



photo:05




店員さんがいらっしゃいませーって言うし、店内に流れている音楽もミスチルとかだし、もちろん並んでる商品はほぼ日本のもの。

お菓子とかインスタント食品とか、全部日本のもの!!

ただ値段は2ドル均一だけど、円に換算したら165円くらいなのでやっぱりめちゃくちゃ安い。



「ここに来たら本当になんでも揃うから外国にいる感覚がしないですよねー。」


と言いながら本だしを買っているエミさん。
確かにこりゃ日本とほぼ変わんないな。








「金丸さん、次はどこに行きます?」


「んー、無印でちょっと服を見てみようかな。」


「むーじるし!!?むじるしってなんですか!?それってアルマーニとどっちが高いですか?いやー、なんかピンクドンペリが飲みたい気分だな。」



調子乗りすぎ(´Д` )








photo:06



無印とか懐かしい。

あー、よく宮崎で彼女と家具を買いに来てたなぁ。

MRTミックの中の無印で買い物して、爛漫行ってチキン南蛮食べてドライブして………って、マジでここ日本だな。



てなわけで久しぶりに服買っちゃった。

ズボンとシャツと帽子。

しめて135シンガポールドル。1万1千円くらい。

うひょう!!シンガポール満喫してる!!

photo:07








「ちょっとお腹空いたんで何か食べませんか?」



「えー、何食べる?屋台とかこのへんあるかな。」



「屋台!?金丸さん屋台でご飯食べちゃったりするんですか!?シースーにしましょうか。シースー。」


photo:08





ここの回転寿司、安くてそれなりに美味しいのでいつも混み合う時間帯には大行列ができるんだそうだ。

1.5ドルで2カンなら確かに安いよな。

イクゾー君、10皿食べてる。


photo:09



顔がいらつく(´Д` )








それからもアジア用のコンセントアダプターや変圧器を買ったり、色々とウィンドウショッピングをして、久しぶりに物欲を発散。

シンガポールは観光はマーライオンくらいで、あとはお買い物をするための国だな。

photo:10



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「さて、買い物もだいたい終わったし、今から何しようか。」



「そうだねー、イクゾー君すごいことするんじゃないの?」



「あ、やっちゃいます?レジェンドいっちゃいましょうか?」



「そうだなー、ギャンブルで勝った金を切り崩しながら旅するのってダメやろ?」



「あーもうそれ、1番ダメなやつです。ダサいっす。」



「じゃあなにする?」



「ブランド物買う?ボロボロの格好してるくせにそれだけすごいみたいな。ていうか財布買いなよ。お金何に入れてるの?」



「スーパーのレジ袋です。」



「あ、じゃあマネークリップなんかどう?ヴィトンのマネークリップ。」



「ヴィトンのマネークリップでマレーシアの金挟んでもしょうがなくないですか?」



「じゃあネイルサロンで爪を綺麗にしてもらうってのは。スワロフスキー散りばめちゃおうよ。」



「そんなやつがギター弾いてて誰がお金入れてくれるんですか。」



「星に名前つけられるらしいよ。」



「ほ、星に!?」



「よし!!もうチンチンに真珠入れちゃおう!!」



「入れて誰ともやれずに日本に帰ったらギャグじゃないですよ。」




そんなしょうもない話をしながらひとまず電車に乗る。

ひとまずどっか面白いところに行こう。



「えー、じゃあ何がいいの?普通なことしてもしょうがないやろ。もう犬飼えばいいんじゃない?」



「あ、いいっすね。じゃあもういっそアジアに向けて狂犬病の犬を飼うってどうですか?」





大笑いしながらやってきたのはここ。

シンガポールで1番のブランド街、オーチャード。


photo:13



photo:14




「え……ちょ…な、なんでこんなとこ来たのか意味がわか」



「さ、小林君、行こうか。」



「え!?ちょ、ちょ……まっ!!」



世界で1番ルイヴィトンに無縁な旅人、小林イクゾー、入店。

photo:15






「え、ちょ……なんすかこれ……なんでサングラス並べるのにこんなにスペース使っちゃうんすか……意味わか、」



「あれ?小林君、ビビってるの?さっきまであんなに大きなこと言ってたのに。」



「ぜ、全然ビビってないですよ。ただこの机がいい木材使ってるジャンって思、高っ!!なにこれ高っ!!べ、ベルトが8万円!!マレーシアだったら300円ですよ!!?無理っす!!ここ無理っす!!いたらダメっす!!」



「そっか、なら隣のお店に行こうか。」




そして隣のショップのドアを押す。

photo:16






「何当たり前のようにプラダに入店しちゃってるんですか……俺たちバスカーですよ……やっていいことと悪いことがありますよ……この人わかんねぇ……」



「これなんかどう?この靴。ホラ、クールでポップだよ。」



「あー、なんかわかりま、高っ!!高い!!なんでこんな生地全然使ってない靴が12万もするんですか!!おかしくないですか!?俺ちょっと店員殴ってきます!!」



「わかった、わかったよ。わがままだなぁ。あそこ行こう。あそこならいいやろ。」






ドルチェ&ガッバーナへ。

photo:17





「な、なにディージー入っちゃってるんすか………ディージーっすよここ……ダンディーの人たちのとこですよ……」



「あ、すみません、マネークリップありますか?」



「こちらになります。」



「お!!小林君、300ドルだって!!ピタリじゃん!!」



「何がピタリかひとつもわかんないっす。ディージーのマネークリップにリンギ挟みたくないっす。」





一生縁のなさそうなブランド店を一通り回って外に出てきたあとのイクゾー君。

photo:18






「ダメっすね……意味わかんないっすもん……値段……俺やっぱあれっす、アディダスあたりが限界っす………」



「そうだよね……あんなの買っちゃダメだよ………」



「ていうか昼の寿司に17ドル払った自分殺したいっす。オーストラリアの頃の俺が言ってるっす。お前何ヴィトン入ってんだって………」



「やっぱりコツコツがいいんだよ。地道に行こう。」



「そうっすね……やっぱり初心を忘れたらダメっすよね……あー、星に名前つけなくてよかったー。俺明日からまた頑張ろ。」




なんだか優しい気持ちになり、それからみんなで有名な屋台村のニュートンホーカーへ行き汗をかきながらご飯を食べてビールを飲み、最高の夜を過ごした。

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たくさん笑ってたくさん話した。
みんなとてもいい笑顔だった。

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photo:23






イクゾー君、俺たちこれからもっと頑張ろうぜ。

今は俺たちまだ何も持っていないけど、きっと何か掴み取れるはずだよ。

いつかきっとヴィトンのバッグよりも価値のあるものを見つけようぜ。



「俺マジでこの旅の中で絶対にやりたいことがあるんです。だから絶対立ち止まれないんです。行くとこまで行っちゃいますよ。」



自信に満ちた顔で夢を語るこの男。
イクゾー、いい顔してるぜ。










そう言って最高の笑顔を残してイクゾー君はシンガポールの一大風俗街、ゲイランのピンクネオンの中に消えていきました。


グッドラック、イクゾー。



さ、帰ろ。







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シンガポール人の男前

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5月28日 水曜日
【シンガポール】 シンガポール




photo:01




ここ数日エミさんの家に泊めていただいていたわけだけど、ルームメイトのフィリピン人の女の子がもう我慢できないとエミさんに言ってきたみたい。


どうしてそんなに散らかすの?みたいな感じで文句を言われたそう。


マジですか………



食器はもちろん洗い、料理の後はガス台の周りも拭きあげ、シャワールームでは毎回排水口の髪の毛を綺麗に取り除く。こんなん当たり前。

アンナちゃんがハウスキーピングで床も掃除していたし、常に跡形のないように心がけていたのにこれでも彼女からしたら散らかしてるうちに入るようだった。



彼女とはたまにリビングで会うけども挨拶するくらいで全く会話は生まれない。
完全に私には関わらないでというオーラが出ていた。
一流企業に勤める超エリートで、身につけるものは全てブランド物、彼氏はアジア女子憧れの白人男性。

そんな一流志向の彼女にとっては俺たちバッグパッカーなんてものの存在は自分の人生に何の益ももたらさない無縁のものなんだろうな。


でも、この数日泊めてもらえたことには感謝しかない。普通に考えたらいきなり知らない小汚いやつか何日も自分の家にいたらストレスも溜まるよな。

今までフレンドリーでハッピーなやつらばかりの家に泊めさせてもらっていたけど、それとこれとを一緒にしちゃいけないよな。


エミさん、迷惑かけてごめんなさい。
そして本当にありがとうございます。

部屋の中の荷物をまとめる。












シンガポール最後の日に取りに来ることにして大きなバッグは部屋に置かせてもらい、ギターとリュックと寝袋を持って家を出た。

エミさんのところに泊まれなくなったのは残念だけど、別にそこまで焦ってはいない。
泊まるところはある。


今日からイクゾー先輩の家に居候だ。


イクゾー先輩の家、そう、チャンギ空港。


これ以上泊められなくてごめんねー……と謝ってくれるエミさんだけど、この数日泊めていただけただけで本当に助かった。
また最後の日あたりにご飯食べに行きましょうと約束して電車に乗り込んだ。












先日から長引いている風邪がなかなか治ってくれず、だるい体にバッグとギターが食い込む。

エアコンのよく効いた電車の中、しかし乗り換えで一歩プラットホームに出ればまた湿気を含んだ熱気がむわりとまとわりついてくる。

今日から歌いたかったんだけど喉もボロボロのままだし、こいつはもう少し様子を見た方がいいかな………










せっかくめちゃくちゃ稼げるシンガポールにいるのに歌えないという状況に焦ってしまうが、路上の他にもやることはいろいろある。

シンガポールに来たらお会いしましょうとメールをいただいていた人たちとの約束をほったらかしのままにしている。

さらに今夜はこの前路上で仲良くなったシンガポール人のジェイクという男の子と晩飯に行く約束もしている。

路上はやめてひとつひとつ約束を果たしていこう。










やってきたのはシンガポールのショッピングの中心地、オーチャード。

そのど真ん中に堂々とビルを構える高島屋へ向かう。

たくさんの人で賑わうデパートの風景はどこからどう見ても日本そのもの。
デパ地下の食品街に来るとあまりの日本語の多さにここがどこかわからなくなる。

日本がどれだけシンガポールと密な関係があるかがよく分かる。





そんなデパートの1階のエスカレーター横にある椅子に座りしばらく日記を書いた。

目の前にはたくさんの化粧品屋さんが並び、バッチリメイクの美しい中国人たちがお客さんに商品の説明をしたり、おばさんの肌に機械をあてたりしている。

切れ長の目と細いあご、白い肌。
その黒い瞳にはどこか怪しげな冷たさがある。
中国人の顔は日本人とは違うけれど、これこそオリエンタルな美女だなと思える。



男ももちろん、柔らかくて甘いマスクなんだよな。

ビシッと細身のスーツをきめて、髪の毛を全体的に右が左にゆるく流す。
無精髭で長髪をなびかせる、といったワイルドな風貌の男はあまり見かけない。
シンガポールの中国系男子はみんな可愛らしいのが売りだ。

中国本土に行くのが楽しみでしょうがないな。

ゲイじゃねぇ!!









photo:02



待ち合わせ場所にやってきたのは、オシャレなストリート系の兄さんだった。

マサさんとマーシーさん。



「ちゃーっす!!金丸さん!!チョリっす!!チョリチョリ!!」


やべぇ、このノリめちゃ嬉しい。
なんか昔遊んでた友達みたいな感じがして懐かしくなる。

実際チョリチョリとかまったく言ってないけどそんな感じのノリということで^_^

マサさんごめんなさい^_^




「今2年住んでますけど、やっぱ長くいたら飽きますね。」


お2人の希望でお仕事何してるかは伏せます。
全然ヤバい仕事とかじゃないですからね。
全然売人とかじゃないですから。



全然売人とかじゃないですから。



あれ、なんで2回書いたんだろう?









3人で喋りながら電車に乗ってトアパヨーの駅に行き、そこで晩飯の約束をしていたジェイクと待ち合わせ。


やってきたジェイクは今日も男前だなこの野郎。
背高いしハンサムだしオシャレだし前バーテンやってたらしいし、ちくしょうめ。

photo:03





しかも写真が好きらしくめちゃカッコイイ一眼レフを持ってきてる。

いい趣味してらっしゃいますねと思ったらギターも持ってきておりチラリとギターケースを見たら、マーチンだった。



なるほど、坊っちゃんというわけでございますか。

photo:04






「フミ、この先にすごく美味しいお店があるんだ。そこでいいよね?」




なるほど。お高いレストランに連れて行ってくれるというわけですね。

こんな男前の坊っちゃんが行くようなところですからね、僕みたいなしがないストリートミュージシャンが行ったらお金全部むしりとられるよホーカー。




photo:05




よし、ホーカー。


photo:06






「じゃあ食べましょう!!フミたちはビールも飲むよね?」


「当たり前だ!!200本持ってこい!!」



この暑いシンガポールの夜に屋台で汗かきながら飲むビールの美味さ!!

料理もまた全部感動的に美味い。

ああ、ホーカー最高ーー!!!

photo:07



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photo:09










気持ち良く酔っ払ってどっかでギター弾こうぜ!!ということになり、ホーカーの裏にあったマンションに入ると中庭に休憩スペースがあったのでそこで飲み直し。

薄暗い明かりの下で、地べたに座って瓶ビールをあおり、ジェイクとギターを弾いた。

photo:10





マサさんのリクエストでデスペラードを静かに歌ったら向こうの方に座ってたマンションの住民さんから拍手してもらった。
ごめんなさい、酔っ払ってて………








「あ、チューっす。どうもっすー。」


気持ちよく飲んでるところにイクゾー君が夜の中から登場。

僕のブログを読んでくださってるマサさん。もちろんイクゾー君のことを知っている。




「イクゾー君、今日は何してたの?」


「あ、そこ聞いちゃいます?いやー、カジノっす。」


「その余裕シャクシャクなところを見ると、そういうことなの?」


「いやー、全然っす。ダメっすね。たった150ドル増えただけっす。しょっぺっす。あー、シンガポール楽勝ー。」




みんなで大笑いしながらビールを飲む。
やっぱりシメはラーメンでしょ!!と近くのコンビニからカップラーメンを買ってきてみんなで食べる。

男前坊っちゃんのジェイクもカップラーメンを食べる。



自由な空気と、楽しい仲間と、暑い夜。
いつかの10代の夜に戻ったような気がした。

photo:11














「そろそろ帰ろうか?あ、やば、もう終電終わったんじゃない!?」


「え?金丸さんまさか電車で帰るつもりだったんですか?僕の子供の頃からタクシーしか乗ったことないのでタクシーで帰ります。」



「顔がイラつく。」




マーシーさんと俺たちでタクシーに乗り込み、ジェイクとマサさんとはここで別れた。

そしてマーシーさんも途中でタクシーを降り、俺とイクゾー君でチャンギへ帰る。
シンガポールのタクシーはそこまでバカ高くなく、街から空港まで行っても20ドル前後ってとこ。



あ、あれ?俺なんかおかしいこと言ってるかな……金銭感覚……




空港に着きタクシーの支払いをしようとすると、ドライバーさんがあと2ドルね、と言った。
は?と思ったらマーシーさんが降りる時に20ドル払ってくれていたのだ。


払いすぎですよマーシーさん………



マサさん、マーシーさん、楽しかったです。
またどっかで面白いことしましょう。
ありがとうございました!











「はい、着きました。ここが僕の家、ターミナル3です。」


photo:12





フカフカの絨毯、きらびやかな装飾、頬ずりできるほど綺麗な床。

贅の限りを尽くしたシンガポールのチャンギエアポートの中を颯爽と歩く小林イクゾー。

photo:13





「ここでWi-Fiのパスワードもらえます。向こうのトイレが広くて蛇口の水の出がいいです。スーパーマーケットとフードコートはB2フロアーにあります。あ、夜食食べなくていいですか?」


「もう完璧にチャンギのヌシだね。」


「あははは、チャンギでイキッてるやつみるとあれあれ?って思っちゃいますよね。ホラ、あのおじさん、彼はもう完全にチャンギで住民票とってる人です。あ、彼女は友達です。ハーイ。」


「ハーイ、イクゾー。」



ベンチに寝転がってる太ったおばちゃんが笑顔で手を上げる。



「なんか太りすぎて仕事がないから仕方なくここに住んでみたいです。」



ベンチの後ろに手慣れた様子で寝床を作るイクゾー君。
シドニーのアーロンにもらった寝袋が大活躍しているよう。

photo:14






「イクゾー君、明日は何するの?」



「え?それ聞いちゃうんですか?」



「…………ぜってー全部失わないとやめないね。」



「明日は2000ドルにしてみせます。」




俺も明日は歌わないとな。
ベンチの上に寝転がって寝袋をかぶった。







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