世界一周ってなんだろう

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5月28日 火曜日
【スイス】 バーゼル ~ チューリッヒ










「ヘイ…………ヘイ………フミ………フミ!!」





目を覚ました。


部屋のドアを見ると、割れた窓の向こうにジョシュの顔があった。



「フミ、もうすぐ10時だよ。そろそろ起きなくていいかい?」




ビックリした。


日中にほぼ寝ているというあのバンパイア、ジョシュが、こんな時間に起きている。

もちろん、部屋の中だというのにサングラスをかけている。


さすがはバンパイア。








荷物をまとめてジョシュの部屋に行くとコップを用意していた。


「何か飲むかい?」


「ジョシュ、いいのかい?こんな時間に起きてて。」


「問題ないさ。」



お湯を沸かしながらジョシュは続ける。



「僕はこの前のことを後悔しているんだ。君をぞんざいに扱った。君から相手をリスペクトするということを教わったんだ。感謝しているよ。」





そう言ってくれるのは嬉しいが、アウトローとして完成しているジョシュを変えてしまったことにほんの少し複雑な気持ちになった。











荷物をまとめて外へ出た。


「ジョシュ、ありがとう。君は優しい男だ。君に会えてよかったよ。」


「フミ、いつでもここに戻ってきていいからね。僕がイスラエルに帰ったら、イスラエルにも遊びに来てくれ。」




日中に見るバンパイアは色白で、細く、でもとてもいい笑顔をしていた。

固く握手をして別れた。




ジョシュ、ヨーロッパ最後の友達が君で本当によかった。


同じアウトロー同志、我が道を突き進もうな。









photo:01



乗り馴れたトラムで中央駅へ。


飛行機が出るのは、ここバーゼルにある空港からではなく、少し離れたチューリッヒの空港から。


31フラン、25ユーロのチケットを買い、電車に乗りこんだ。









photo:02



わずか1時間でチューリッヒに到着。


フライトは明日の朝。


今夜は空港で寝るとして、今日がヨーロッパ最後の路上だ。


気合い入れて歌えよ!!と言わんばかりの汗ばむほどの陽気。


やってやろうじゃないか!!





photo:03



チューリッヒは都会だ。

首都であるベルンよりもはるかに都会。

おそらくここがスイスで1番大きな都市だろう。

photo:04




暖かい日差しの中で、人々はカフェに憩い、綺麗な川沿いでノンビリと水面を眺めている。


洗練された、とても美しい街。









近代的なビルが並ぶ新市街を抜けると、細い路地が複雑に入り組む旧市街があった。

photo:05



photo:07




チューリッヒは大きな湖に面しており、その湖から流れ込む川沿いに旧市街が形成されている。

photo:06



photo:21





ヨーロッパの旧市街もこれが見納めか。

photo:22



photo:23






川の両側に大きな教会の尖塔がそそり立ち、そのはるか向こう、おそらくアルプスであろう山並みが見えた。

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青空に映える、雄大な雪化粧の山並み。

photo:09





そうだよ、ここはスイスなんだよな。


あそこに行きたかった。

行きたかった。











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今俺にできることは歌うことのみ。

旧市街の中に小さな噴水を見つけ、そこの前でギターを構えた。




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あー、本当何回歌ったかなぁ、ヨーロッパ。


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雨の日も、風の日も、雪の日も、氷点下の日も、とことん歌ったなぁ。


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俺は少しは成長したかなぁ。


photo:14




少しは心に響く歌が歌えるようになったかなぁ。


photo:15




そうなったと思いたい。


なってなきゃ馬鹿野郎だよな。


photo:16





ヨーロッパ最後のあがりは106フラン。
7ユーロ。




あわやグループのみなさん!!
差し入れありがとうございました!!!

photo:17












この調子で夜も歌おうと思っていたら、さっきまでの快晴が嘘のような雨雲がやってきて、突然ものすごい勢いの雨が降り出した。


雷が轟き、あの大きな教会の尖塔が雲に隠れてしまった。

photo:18










軒下で雨をしのぐ。

なんとかもう一度歌いたい。

ヨーロッパ最後の歌。


あの歌を歌おうと思っていた。


あの歌しかない。





土砂降りの中、なんとか歌おうと軒下でギターを構えた。


すると、そこにお巡りさん登場。


どうやらチューリッヒでは市街地での路上は禁止されてるとのこと。


やるならば湖のほうまで行かないといけないそう。




日中に歌えただけラッキーだったってことだな。



おとなしく雨の中、走って駅に向かった。















photo:19



空港までの電車代は6.6フラン。

チケット売り場で小銭を広げると、おじさんが小銭を数えてくれる。


「いち、に、さん、しー………はい、6.6フラン。これチケットね。」



あれ?明らかに3フランくらいしか取ってない。


戸惑っていると、おじさん、俺を見てウィンクした。




おじさん、イカしたプレゼントありがとう。











そして忘れてはいけないのがコインの換金だ。

郵便局に行って、さっき稼いだ小銭をスイスフランの紙幣に換えてもらった。


これで全ての準備は整った。


整った、はず。

整った、よな?


俺またなんか忘れてないかな。













電車は10分で空港に着いた。

巨大な空港内。

photo:25




色んなショップやスーパーがあり、ここでなんでも揃うな。


このしょうもないお寿司が2000円。
やっぱりスイスは高い。
photo:20





あまったフランの小銭でビールとタバコを買った。

















たくさんのフードコートやレストラン、バーがある中、ベンチに座ってビールで乾杯。


レストランなんか行かなくたって、俺には最高のご飯があるもんね。



photo:24




あああああああ!!!!!



どっちにしよおおおおおお!!!!



サバ味噌と牛肉大和煮!!!


美味しそうだから最後までとっといたんだよねえええええ!!!!!



迷った結果、サバ味噌。



うめえ。間違いねぇ。

1人でガッツポーズ。














空港の中、たくさんの人が行き交う。

みんなどこかへ行くんだ。

それぞれの人生のために。

俺も行くよ。俺の人生のために。
















夜がふけると少しずつ人影がまばらになり、騒がしかった空港内はがらんと静まっている。



トイレに行き、明日のために髪を洗い、顔を洗い、綺麗にヒゲを剃った。


カナダはイギリスほどではないが、やはり入国審査の厳しい国だそう。


ちゃんと入れるかな。


こんなにドキドキするの久しぶりだな。












ああ、ヨーロッパ。

長かったなぁ。

いや、もっともっと居たかった。

こんなんじゃ全然ヨーロッパを見たうちに入らないよ。


どこにでもある教会、どこにでもある旧市街、歴史を秘めた路地裏、道端のキリスト像。


紳士な人々、優しい人々、アウトローも、アートも、サブカルチャーも、


すべてが芳醇にここにあった。


辛かったことも、悲しさも怒りも、ヨーロッパならば全てが受け入れられる。



もはやちょっと住みたいもんな。

楽しすぎたよ、ヨーロッパ。


シェンゲン協定だけは許せねえけど!!







しかしやっぱり悔しいよなぁ。

イタリア、ギリシャ、バルセロナ、モンサンミッシェル、イギリス。


世界一周するならば絶対に外せないと言えるこの国々と名所。


それを飛ばしてしまう。



では世界一周と言えないのか?


何をもって世界一周というのか?



50ヶ国以上行けばいいのか?


1年以上の期間をかければいいのか?



フランスに行ってアメリカに行って日本に帰る。
1週間の2ヶ国だけでも、ぐるっと地球を回れば世界一周だよ。




ようは自分が納得すればそれが世界一周なんだよな。

他人の評価ではなく、自分がどれだけの価値を見出せるか。


旅なんてそんなもんだよな。

だからこそやめられないんだ。
















ひと気のなくなった夜中の空港。


誰も乗らないエスカレーターも、動くのをやめている。



ビールを飲みながらギターを取りだした。

ポロポロと音を出す。



誰もいないフロアーにポロポロと音が響く。


電気が消えて構内が暗くなった。










今日、路上でやりたかったヨーロッパ最後に決めていた曲。


観客はいない。


ポロポロと口ずさんだ。


まだまだ続く旅のために。

そして全ての旅人のために。









俺は海に出る
海に出る
故郷を離れ
大洋を渡る
俺は海に出る
荒れ狂う波をこえ
君に近づくために
自由になるために


俺は空を飛ぶ
空を飛ぶんだ
鳥のようにはばたき
俺は空を飛ぶ
高い雲を突き抜け
君に近づくために
自由になるために





明日ついにアトランティッククロッシング。








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カナダ入国なるか

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5月29日 水曜日
【スイス】 チューリッヒ
~ 【カナダ】 トロント







ビビりすぎてチンチン小さくなりすぎイイイイイイイイイウウウウウウウリリリリリリリリィィィィィィィィィ!!!!!!!!




photo:01



久しぶりの国境越え(´Д` )


しかも結構入国審査の厳しいという噂のカナダ(´Д` )







アババババババ手汗が止まらない(´Д` )

怖えええ(´Д` )




だってさ、クレジットカードないからさ、宿の予約が出来ないんだよ。

滞在先はどこ?って100パーセント聞かれるやろ。

とりあえずホステルドットコムで安いところ3件くらい調べてるから、その中のどれかを入国カードに記入する!!





出国のチケットは持ってる?って2億パーセント聞かれるやろ。


これです、ってスイスへの往復のチケット見せたとして、ああ?てめーシェンゲン追い出されてる身でまたヨーロッパに帰れるわけねぇだろーがこの嘘つきチンカスがって言われるだろうから、大人しくアメリカに行きますと言う!!



グレイハウンドっていうバス会社が80ドルくらいでニューヨーク行きのバスを出してるみたいだから、その会社のホームページの画像もiPhoneに入れている。







滞在はどのくらい?

1週間です。





所持金はいくら持ってるの?

ユーロとフランとその他のお金をあわせてキャッシュで1500ドルです。





なんでカナダに来たの?

ナイアガラで滝行を。






早漏なの?

違います。









おおお、完璧。



昨日ヒゲを剃って髪を洗って清潔にしたので、なんとなく空港の人たちの対応が優しい気もする!!


スリッパからブーツに履き替えて、音楽大好きです、ジョニ・ミッチェル愛してますアピールもぬかりなし。




もはや俺に行けない国はない。

シェンゲン以外。

photo:02





喫煙ルームがめちゃラグジュアリー。

photo:03













余裕しゃくしゃくでチェックイン。

まずは同じシェンゲンのパリなので、ここでのパスポートチェックはなし。





10時40分。

ついに忌まわしきスイスから飛行機が飛びたった。














低い雨雲を突き抜け、さらに上空の厚い雲を抜けると、当たり前だけど青空が広がった。


そしてあっという間にまた雲に突入し、着陸。


50分のフライトでパリのシャルルドゴール空港にやってきた。








ここから乗り換えまでの時間が短い。

1時間しかない。


急がないといけないのに、ここシャルルドゴール空港はシャトルバスで10分近く走らないと次のターミナルに着かないという広大さ。




急いでシャトルバスに乗り、小走りで搭乗ゲートにやってくると、立ちはだかる人垣。

photo:04





来た。

出国カスタム。

ついにシェンゲンから脱出する。





若干のドキドキはある。

でも出るぶんには問題ないだろう。


予想通り、カスタムの兄ちゃんは挨拶もしないで、やってくるパスポートに機械的にスタンプを捺すだけだった。






オラぁ!!シェンゲン!!

もうしばらく来ねえからな!!

チンカスが!!










飛行機に乗り込む。


今まで乗った飛行機って、どうしても乗らないといけないから乗ってただけの、小さな移動用のものだったので、1列4シートしかないやつばっかりだったんだけど、今回のビッグフライトの飛行機はさすがに違う。



1列が10シート。


人ひしめきすぎ。

photo:06







そして、ビビることに!!


婆さんから小さな子供まで、みんな英語喋ってる!!!


信じられねえ!!!

飛行機の中、英語まみれ!!


今まで、地元の人が会話してるのって一切理解できなかったんたけど、何話してるかわかる!!





オラぁ!!
今までこっちがわからんと思ってヒソヒソ俺のこと見ながら笑やがって!!

ストューピッドとかわかるんだからな!!!












そして、飛行機のサービス内容がすごすぎる。


いきなりカードを渡されて、なんだろう?と見てみると、それはメニュー表。


機内での食事を選べるのだ!!!

すげえ!!!


さらにコーラなどのソフトドリンク飲み放題はもちろん、コーヒーもビールもワインも飲み放題。




photo:05



なので気合いでビール飲みまくる。


でも、カスタムで怒られそうだからほどほどにしておく。







photo:07



映画は見放題だわ、デザートとかまで来るわで、もう俺ただの放浪者なんですけど。

そんな世界を股にかけるビジネスマンとかじゃないんですけど。

photo:08













そんな贅沢すぎるフライトの時間は2時間。


え?たったの2時間?


だってチケットに、14時パリ出発の16時カナダ着と書いてある。







あ、時差ですよね。


時計をカナダに合わせた。




そしたら時間が朝になった。





えええ?!!

今日、朝から動いてスイスからパリに飛んで、昼過ぎから飛行機に乗ったのに、また朝から今日をやり直すの!?


つまりフライト時間は8時間。


俺にとって5月29日は30時間という、人生で多分1番長い1日。


地球の自転を追いかけてるってことだよな。


これで日本との時差はマイナス13時間になった。











8時間でも映画見まくってればあっという間に時間は経つ。

アメリカの西海岸を舞台にしたギャング映画や、大学生たちの青春ムービーを観ていると、あー、俺今からこの場所に行くんだよな、と不思議な感覚になる。

そうだよ、アメリカ大陸に行くんだ。


子供の頃から慣れしたんでいるアメリカ文化。
本物のアメリカ。

あまりにもたくさんのイメージが先行して、ドキドキと不安で胸が苦しくなる。












まずは、その前に越えなければいけない大きすぎる壁がある。


飛行機が地面に着地した。

海を越えたぞ。


いざ、入国カスタムへ。














空港内の通路を歩きながらドキドキが止まらない。

もし入国拒否をくらったらヨーロッパに送り返される。

しかしそこはすでに俺が滞在できる場所ではない。


なんとしてもクリアーしなければ。







カスタムが見えた。

列に並ぶ。

胸が張り裂けそうだ。


飛行機の中で配られた入国シートは完璧に記入した。


ホテルの住所も携帯に入っている。

ぬかりはない。多分。

しっかり、ハキハキと、明確に答えなけばいけないぞ。





「次の人ー。」


「はいー、ハロー。」


「パスポートプリーズ。どうしてカナダに来たの?」


「か、か、か、か、か、か、か、か、か、、か、皮かむり、じゃなくてカンコウ、じゃなくてサイトシーイングです。ニコリ。」


「どこに観光に行くの?」


「えーっと、那智の、いや、華厳の、あいや、袋田の、いや、尾鈴の、いや、ナイアガラの滝です。」


「何日滞在するの?」


「1週間です!!」


「このチケットはいつ買ったの?」


「なっ!!そ、そこ?!…………ひっ…………3日前です。」


「どうしてもっと前に予約しなかったの?」


「ひょ………ほへ…………シェンゲンを強制退去になりまして………」


「ふーん。」




この間、俺の31年間の全てをつぎ込んだ、観光楽しみ!!スマイルと、若干の不安とを絶妙にミックスさせた無垢な仔犬の表情を作りながら受け答えします。


そして、とてもスムーズな流れで別室送りです。








いやあああああああ!!!(´Д` )

やめてえええええええあええ!!!!!

photo:09











別室にて、また同じような質問を受けます。


「えーっと、今までの旅の流れを教えて。」


「日本からロシアに渡って、ヨーロッパに抜けて、中東からアフリカに行き、ヨーロッパに戻って、今カナダです。」


「職業はなに?」


「シンガーです。」


「へー、そうなんだ。カナダでも歌うの?」


「ききき、機会があればやりたいと思います。」


「お金はいくら持ってる?」


「1500ドルです。」


「そうか。………よし、じゃあ旅を楽しんで。」








スタンプ、バスン。















え?いいの?


全裸とかならなくていいの?























うっひょおおおおおおお!!!!!!!!
カナダ入りいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!






空港の外に出て、勝利の一服。


やったぞ、俺。

ていうか宿泊先とか帰りどうするのか?とかまったく聞かれなかった。


へっ!!!
俺にかかれば楽勝だぜ!!




あああ、怖えかったああ…………




さぁ、カナダ。

ついに3つ目の大陸、北アメリカ大陸。

気合い入れ直そう。


バッグからタオルを取り出す。

久恵ちゃんが送ってくれた、缶詰をくるんでいたタオル。


そしてこのスタイル。

photo:10




気合い入るぜ。
















まずはトロントの街に向かおう。

空港内でとりあえず50ユーロだけ換金。


photo:11




55カナダドルをゲット。

レートがいくらかわからん。

この国の物価もわからん。


でもまぁ、空港から街までなら5ドルくらいで行けるだろうと、街行きのバスを探すと、






27カナダドル。






嘘だろ?




そんなするの?








いや、無理だよそんなの。

歩くよ。


そして無謀にも空港から街へ歩く。






photo:12



フランスでは息が白くなるくらいに寒かったのに、カナダに着いた瞬間、全裸になりたいくらいの暑さ。


照りつける太陽に汗が吹き出し、湿度も高くて身体中がベトベトする。


そんな中、どっちが街かもわからないまま、勘で歩いた。











広大な敷地の空港。


どこまで歩いても空港の中から抜け出せない。


そして歩くやつなんていないので、歩道がなく、車がビュンビュン真横を走り去って行く。



フェンスを越え、ブロックを越え、分離帯の芝生を突っ切る。

こんなとこ歩いたらダメだよな…………

photo:13













しばらくすると、歩いてた道が高速道路っぽくなった。


ていうか高速道路。


やべえ、こんなとこ歩いたらいけない。





なんとか一般車線に出たいのだが、空港の周りの郊外には高速道路ばかりしか通っておらず、しかも大きなフェンスで外に出られない。



車がビュンビュン駆け抜ける中、隅っこを歩いて行く。





するとこんな看板が。





photo:14




うっひょおおおおお!!カナダ来たんだよなぁああああ!!!!


一気に旅が進み、嬉しくて嬉しくて、歩きながら大声を上げる。








すると次にこんな看板が。






「トロント 28km」







…………無理。


歩けねえ。








えええ、そんな遠いのかよ(´Д` )


どうしよう。









それでも新しい土地に来たことが嬉しくて、歩き続けた。
















「ヘーイ!!何してるんだこんなとこで!!」



声に呼び止められて振り返ると、1台の車が路肩に寄せている。


中から巨大な体の黒人が降りて来た。



うお、いきなり襲われるアレですか。



「どこに行くんだ?こんなとこ歩いたらダメだよ。行くとこの住所はわかってるのか?」


「別にどこに行ってもいいんです。」


「うーん、でもここは歩いてたら危ないからなぁ………トロントの街まで乗せてってやるから車に乗りな。」




やったー!!!




と、そこにもう1台の車がやってきた。

パトカーだ。



やべえ。新しい国に着いて2時間で警察沙汰とかヤバすぎる。


すると黒人の兄さんが警察に事情を説明してくれ、あなたが乗せてってくれるなら見逃すよ、とパトカーは走って行った。



「よし、行こうか。」












photo:15



photo:16




彼の名前はクリントン。

家族みんなでケニアから来ており、もう20年以上カナダに住んでいる。

色んな話をして盛り上がり、すぐにトロントの街に着いた。















photo:17



うおおおおおお…………



ゲロ都会………



都会すぎるぜトロント。




竹原ピストル風に言うと、まさに下手くそがやったテトリスみたいに高層ビルがグジャー!!っと乱立している。


歴史あるヨーロッパでは見なかったこの近代っぷり。


これが北アメリカだ。










街中も、もうぐっちゃぐっちゃのごっちゃごちゃ。

新しい街らしく、道が全て碁盤目になっており、ガラス張りのオシャレな建物ばかり。



ヨーロッパ的な古い建物なんてひとつもない。



「ここがチャイナタウンで、そこが大学。あのタワーがトロントのシンボルだよ。」


走りながら街の説明をしてくれるクリントン。

本当にいい奴。











新しい大陸だし、初日くらいは宿にしけこみたい。


調べてた情報だと、20カナダドルくらいで泊まれるホステルがある。


クリントンに地図を見せ、そこに向かってもらった。











たどり着いた韓国人系のホステル、ナイトインってとこで値段を聞いてみた。


「あの、予約してないんですけど………」


「あああん!!?」


「ちょ………えーっと、1番安い部屋の値段はいくらですか?」


「マスターカード持ってんのか?」


「持ってないです。」


「じゃあダメ。」



究極に態度の悪い韓国人の姉ちゃん。
そう言い放つとさっさと奥に消えた。


クサレアバズレが。
誰が泊まるかこんなとこ。









「へー、カードがないとダメっておかしなとこだね。」


嫌な顔ひとつせず次のホステルに走ってくれるクリントン。


しかしどのホステルも50カナダドルと、高くてとても泊まれる値段じゃない。







photo:18



そんな間、クリントンはケータイで友達や他のホステルに電話して、俺の泊まれる場所を探してくれている。


「なかなか安くは見つからないね。」


「時間大丈夫?ごめん、こんなに付き合わせて。」


「気にしなくていいよ。ちゃんと宿見つけようぜ。」











優しすぎるクリントンと一緒にその後も探し回ったが、32カナダドルの宿が1番安い場所だった。


それでも高い………



「クリントン、俺今夜は野宿するよ。大丈夫、いつもやってるから。」


「そうか………でも待ちなよ。32カナダドルだよ?悪い金額じゃない。ここでゆっくりして、Wi-Fiにつないで、これからの予定を立てたらどうだい?カナダ初日だろ?」






一生懸命探してくれたクリントンには申し訳ない。

でも着いて初日でまだ物価もよくわかってないのに32カナダドルは高い。

だいたい3000円くらいだろう。


「ごめん、本当に節約したいんだ。ありがとう。」


「そうか。別に俺は構わないさ。でもここはヨーロッパじゃないから警察も厳しいよ。野宿はきっと怒られる。」


「俺もそう思うけど、トライしてみるよ。」


「………うん。他に行きたいとこあるかい?それからどこかの公園に連れてってあげるよ。」




わがままを行って酒屋さんに向かってもらった。

今夜はカナダ初日。
祝杯のビールを買った。2カナダドル。



車に戻り、地図を見せてここの公園に行きたいとクリントンに言う。


何も言わずにハンドルを切ってくれるクリントン。


初日から、本当にいい奴に会えたな。


















すると車が止まったのは、さっきの安いホステルの前だった。



「フミ、今夜はここに泊まるんだ。行こう。」


強引に受け付けへ。

そしてクリントンが32カナダドルを払った。


「ちょ!!ちょっと待ってクリントン!!ダメだよ!!」


「フミ、今日がカナダ初日だろ?ウェルカムトゥカナダ。」




そう言って、友達と約束があるからそろそろ行くよと彼は車に乗り込んで帰って行った。

photo:19




photo:20





















ドミトリーの中に入った。


体ベトベトのままベッドに倒れた。

ビールを一気にあおる。



汗をかきまくった体に染み渡っていく。





えーっと、今日は………


スイスからフランスに飛んで、フランスから大西洋を越えてカナダに到着して、高速道路を歩いていたらクリントンに拾ってもらって、安宿探し回って結局おごってもらって……………



ゆうべも空港でほとんど寝ず、さらに今日を30時間すごした身体は極限に疲れており、ビールを半分くらい残したまま眠りに落ちた。









ウェルカムトゥカナダ。


北アメリカ編、開始。







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カナダ、早くも急展開

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5月30日 木曜日
【カナダ】 トロント








寒くて目を覚ました。

ガンガンに冷房がきいている。




ここはトロントの安宿のベッドの上。

渡されたシーツはテキトーに広げただけで、靴下も脱がずに寝ていた。





久しぶりのシャワーで汗まみれの体を洗い流す。

よく考えたらベルギーの女子高生、ホズミちゃんのホームステイ先でシャワーを浴びて以来だから、20日ぶりか。


なかなかいい記録だな。


ヨーロッパでは寒くてまったく汗をかかなかったから入らなくても問題なかったんだけど、さすがに昨日くらい汗だくになったら毎日入らないと気持ち悪い。



そして今日もめちゃくちゃ快晴だ。











photo:01



朝食のホットケーキにシロップをたっぷりかけ、頬張りながら昨日のクリントンに感謝のメールを送る。


カナダを出る前にまた会いたいな。


ネット関係を色々済ませ、ホステルに荷物を置かせてもらって外に出た。


まずはアメリカ大使館とバス会社だ。

photo:02













このトロントでやるべきことは2つ。


ひとつ目は、次の国であるアメリカに入国するために必要なESTAを取得すること。

電子渡航認証システムだったかな?


これはビザではない。

日本とアメリカはご存知の通り仲良しなので、90日以下の観光を目的とする滞在にビザがいらないのだ。


なので、身元を証明するための簡易的な登録をするわけだけど、それがこのESTAってやつ。


インターネットのサイトに簡単な情報を入力し、手数料の14ドルを支払ったら、ほぼ即時に回答が返ってくるそう。


簡単なこと。

フォーマットに従って正直に入力するだけのことだ。



しかし、ここで問題が。




その手数料の支払い方法がクレジットカードからしか出来ないのだ。

ご存知の通り俺はクレジットカードを持っていない。



ならば直接アメリカ大使館に行ってみようと思う。








ふたつ目が、バスの予約。

北アメリカは広大。
果てしなく広大。

今までヨーロッパをちょびちょびと移動していたけど、カナダ、アメリカではもっとでかい移動が必要となる。


彼らはとてもいいバス会社を持っている。

グレイハウンドってやつ。


このグレイハウンドバスでたいがいの場所に行くことができる。

ここトロントからニューヨークまでが確か80ドルだったかな。

めちゃくちゃ距離あるのに、たったの80ドル。


ヨーロッパなら25000円くらいしそうなもの。


彼らのルート網はたいしたもので、アメリカ国内もかなりの規模でカバーしているみたい。

出来るならばカナダにいるうちにアメリカからメキシコに抜ける出国用のチケットも取っておきたい。



アメリカは入国の際に出国用のチケットの提示を求められるから。




カナダ滞在中にこれらを全て済ませてやるぞ。











photo:03



暑い日差しが照りつけるトロント。

暑すぎる。

少し歩くだけで汗が吹き出す。

ヨーロッパではあんなに寒かったってのに。




そしてそんな暑さを加速させるのが街の様子。


巨大なビルディング、ひしめくお店、車の波、人、人、人、人。

photo:04





ガラス張りの高層ビルの周りはエリートサラリーマンがかっこ良くコーヒーを飲み、銀行の建物が威圧的に通りを狭めている。


photo:05




通りに並ぶファストフード屋。
異常なまでのアジア料理店の数。

photo:06





白人、黒人、アジア人、ムスリム、アフリカン、人種のるつぼってのは教科書で読んだ言葉だけど、今まさにそれをこんなにも実感を持って感じている。




photo:07



北アメリカは新しい土地。


ヨーロッパのような落ち着いた上品さなんてカケラもない。

この慌ただしさ。

一気に日本を思い出す。

日本がどれだけ北アメリカに影響されてるかがよくわかる。

photo:08




ビルの階数の表示も、コンセントの形状も日本と一緒だ。














分かりにくいところにあるアメリカ大使館に到着。

入口には怖そうなセキュリティが3人。

フラフラと近づく。



「すみません、ESTAを取りたいんですが………」


「おーい、ESTAだってよー。」


「はいはい、これ。ここ。ここのウェブサイトから見て。わかったね。グッバイ。」



超そっけなく紙を渡される。



「あ、あの、クレジットカードがないと支払いが出来ないんですよね?」


「大丈夫大丈夫、問題ないから。」




えー………そうなの?




大使館をスゴスゴと後にし、Wi-Fiにつないでサイトを見てみたが、やっぱりそこにはクレジットカードのみでしか支払い出来ませんと書いてある。


なんだよー、わかんねーよ。











もっと詳しい情報が欲しくて、今度は日本大使館に行ってみた。


重い荷物を引きずりながら高層ビル地区へ。

photo:09






ここか?と不安になりながら、空にそびえる高層ビルの中のひとつに入る。


33階に日本大使館はあった。

photo:10








「ESTAってクレジットカードがないと取れないんですか?」


「どうやってアメリカに行くんですか?」


「グレイハウンドのバスで行きます。」


「あ、陸路ですか。陸路ならESTAって要らないんですよ。飛行機か船で入国する時は必要ですけど。」







お、マジかそれ。

ていうかマジか?



いや、大使館の人がみんなで言うんだからそうだよな。




「ただバスで行くとして、もし金丸さんだけが入国に手間取った場合、バスは金丸さんを置いて行ってしまう可能性はありますから。滞在の予定、滞在の目的、訪れる街、宿泊先、をキチンとテキパキ答えられるように準備して行って下さいね。」



やはり誰もが言うが、アメリカの入国は厳しいよう。
でもESTAを取る必要がないってのは儲けもんだ。

14ドルもうくし、手間も省けた。


よし、次行こう。
















次にやってきたのは街の中にあるバスターミナル。

グレイハウンドのオフィスへ。


普通に話してるように書いてるけど、この英語圏の国で英語で話しかけるのってとても緊張する。

ヨーロッパではほとんどの人が英語を喋れないので、俺が英語が下手だろうが別に恥ずかしくない。


でもここは英語が母国語の国。
俺レベルの英語で話しかけるのは笑われそうで勇気がいる。






そんな下手な英語で必死に質問しまくってゲットした情報がこちら。






トロント →ニューヨーク 84ドル

ハミルトン → ニューヨーク 87ドル

トロント → バリー 28ドル

ヒューストン → モンテレイ 55ドル






トロントとナイアガラの滝の中間くらいにハミルトンって街があるんだけど、そこからでもニューヨーク行のバスに乗れるようだ。





トロントの次に行こうと思っていた北の町、バリーへも行ける。



そしてアメリカのテキサスからメキシコに抜けるためのバスもここで予約できることがわかった。




すべて手頃な値段。

グレイハウンドやるね!!





後から聞いた情報では、グレイハウンドの期間パスもあるみたい。

いくらでどれだけの期間なのかわからないけど、おそらくお得なことには違いないはず。












とにかく、


ESTAはいらない。


バスも全て予約可能。





後はニューヨークでのホステルをどうにかして予約して、訪れる街をリストアップする。



そしてカナダで10万円くらい貯めることができれば、もはや俺に入国出来ない国はない。



シェンゲン以外!!















さて、とりあえずやるべきことはだいたい済んだ。


北アメリカっぽいホットドッグの屋台で2.5カナダドルのホットドッグで腹ごしらえ。

photo:12




トッピングし放題。

photo:13















さて、この浮ついた街でどこにも居場所のない俺にできることは…………







歌うことですよね…………








photo:11






えーっと…………









怖え。







ものすごく怖い。








なんでこんなにビビってるんだ?


今までさんざんヨーロッパで歌い散らかして来ただろう。


中東でもアフリカでも、どこだろうがやってきた。







なのになんでこんなに怖いんだろう?







街は素晴らしい陽気にきらめき、人々はとてもオープンに楽しそうに歩いている。


この新しい街には、ヨーロッパのような歩行者天国のショッピングストリートがない。


すべての道が車道に面していててとてもうるさい。



1番中心の賑やかな交差点では、アンプを使ってバンドがエレキをギュンギュンやってる。







確かにどのパフォーマーも上手い。

しかしこのくらいならヨーロッパにもいた。

どってことない。








人通りの多い、いい歩道を見つけて座りこむ。


とてもいい場所。


路上におあつらえ向きのスペース。






なのにビビってギターをケースから出せない。





ここは慣れ親しんだヨーロッパではない。

どれだけヨーロッパの空気が体に染み込んでいたかがよくわかる。




ヨーロッパではジックリと歌を聴き、吟味して、お金を入れてくれた。

芸術の国、ヨーロッパ。





しかしここはアメリカ大陸。

エンターテイメントの国。


ただもくもくと歌うだけじゃダメな気がして萎縮してしまう。



楽しそうに目の前を歩いている人たちの流暢な英語やポップなノリが怖い。






そしてここは大都会トロント。

覆いかぶさるような高層ビルと目がチカチカするような巨大看板。




もうトロントから逃げてどこか手頃な地方都市に行った方が落ち着くかな………



そうしようかな………









完全に逃げ腰になっている。

ダサすぎる。


やらなきゃ。

やらんと。

稼げないかもしれないけど、そういう問題ではなく、逃げたらダサい。


やらなきゃ。


もしかしたら素晴らしい出会いがあるかもしれない。


そうだよ、昨日のクリントンみたいな。










ものすごくドキドキしながら、何食わぬ顔でギターを取り出す。


チラチラと見ていく人たち。


アジア人の数が半端じゃない。

日本人も多い。


同じアジア人としてダサい演奏したらこっぱずかしすぎる。




あ、ギターしまおうかな(´Д` )







いやいや、やれって!!



やっちまえ!!



思いっきりギターを鳴らした。
















photo:14







反応は渋い。

とても渋い。

冷たい目線を送る人もいる。











でも、入らないことはない。


シッカリお金が入るぞ。


親指を立ててくれたり、素晴らしい!!って言ってくれる人もいる。




いける。


そうだよ、伊達にヨーロッパとアラブ圏でもまれてねぇんだよ。


歌いまくった。









「ハロー!!エクセレントだわ!!私はバーバラ、よろしく。」


話しかけてきたのは小太りのおばさん。

敬虔なクリスチャンで、面白く、カナダのことについてたくさん話した。


「ここはカナダだからね。ニール・ヤングをやらなきゃダメよ。ハートオブゴールドなんてやったら間違いなくウケるわよ。」



おっと、この俺にハートオブゴールドをやれと言いますか。

オハコ中のオハコだぞ。




思いっきり歌ったら、その通りたくさんの人が足を止めてお金を入れてくれた。

やっぱりニール・ヤングはカナダのヒーローなんだな。




「素晴らしいわ!!ビール飲みながら話しましょう!!」


すっかり話しこんでしまい、結局2時間くらいしかやらなかった。


そして気になるあがりは………




24カナダドル。


悪くない!!!
路上激戦区のトロントでこれなら、もう少し小さな路上パフォーマーの少ない町に行けば100カナダドルも夢じゃないぞ。











photo:15



ギターを片付けてからもバーバラとビールを飲みながら話した。

時間はすでに深夜。

中心の交差点にある広場で、たむろしている若者たちに混じって話す。







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彼らは英語が母国語。

俺のこんな下手くそな英語では彼らの会話の70パーセントは聞き取れない。


それが恥ずかしくて、ついわかったような顔をしてしまうけど、カナダ人はそんなに冷たくない。


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分からなくて聞き直せば、ゆっくり、丁寧に、根気良く説明してくれる。



なんだ?英語も喋れないのかこいつ、みたいな素振りは一切見せない。


日本人が、日本にいる外国人に気遣って話しをするように、彼らも俺を気遣ってくれる。


英語がわからないことは恥ずかしいことではないんだ。

photo:18
















「バーバラ、俺疲れたからそろそろ行くよ。」


「寝るとこはあるの?」


「んー、俺いつもキャンプしてるんだ。外で寝てる。でも大丈夫だよ、いつものことだから。」


「わかったわ。いいところがあるからついてきて。」




そう言うバーバラ。

いいところってどんなとこだ?

まさか家に連れていかれてレイプされてしまうのか!?

バーバラいい人だけど、ごめん!!
ちょっと小太りだし、45歳だし、俺無理だよ!!

絶対勃たたないよ!!

photo:19














まぁそんなことないです。



連れていかれたのは、中心から10分ほど歩いたところにある、とある建物だった。

ゲートウェイって書いてある。

photo:20





なんだここ?


バーバラと一緒に中に入る。


そこには受付があり、2人の男性がいた。


「今夜ベッド空いてるかしら?彼日本から来て泊まるとこがないのよ。」


「空いてるよ。ウェルカム。じゃあここに名前と生年月日を書いて。」


小さなメモ紙を渡され、そこにサッと名前と生年月日を書く。



すると横にいたオッさんが俺の肩を叩いた。


「疲れてるようだね。まぁお水を飲みな。タバコは吸うかい?」


俺にタバコを差し出してくる。

そして壁ぎわに置いてあるタンクから冷えたお水を入れてくれた。


一気に飲み干すと、暑さに火照った体に染み渡った。


「バーバラ、ここってなんなの?」


「ここはホームレスシェルターよ。今日も50人以上が泊まってるみたい。でも気にしないでいいのよ。」




は、初めて来た、ホームレスの人たちの保護施設。

どことなく陰気な雰囲気が漂っていたのはそのためか。



しかし、この施設の凄まじいこと。




★宿泊……………無料
★朝ご飯…………無料
★お昼ご飯………無料
★晩ご飯…………無料
★飲み物…………無料
★荷物預け………無料
★ロッカー………無料
★シャワー………無料
★洗濯……………無料
★お昼のお弁当…無料
★電話……………無料







マジかよこれ…………

ていうかいいのか?


国が運営しているものだろうけど、俺はただの旅行者。
ホームレスだけど、本当のホームレスじゃない。

30ドルも出してホステルに泊まるのがバカらしくなる内容だよ。





「フミ、気にしなくていいの。彼らは来る者をこばまないわ。何も聞かれなかったでしょ?外で寝るんだったらここに泊まればいいの。」


そしてバーバラは帰っていった。


タバコをくれたおじさんが俺に世話を焼いてくれる。

きっと彼もホームレス。

俺たちは仲間。



「じゃあ部屋に案内するね。」


スタッフの兄さんとエレベーターに乗る。

一体どんな部屋なんだろう………

汚すぎるホームレスたちの10人部屋とかなのかな…………










エレベーターが開いた。

そこは真っ暗だった。

廊下などなく、すでにそこが部屋だった。


だだっ広いフロアーに、ムッと汗臭い男の臭いがたちこめている。









暗闇に目が慣れてくると、かなり刺激的なものが見えてきた。


フロアー中にどこまでもベッドが並んでいる。

その上にゴロゴロと人が寝ていた。



10どころじゃねえ。

50人はいる。


まるで臨時の病院みたいだ。






「君のベッドはこれ。トイレはあそこだから。それじゃお休み。」




なかなかの衝撃的な状況に唖然と立ち尽くす。

すごい数のオッさんたちがパンツ1枚であられもない姿で寝ている。

イビキがフロアーのいたるところから聞こえる。




ま、マジかこれ…………



とにかく、すでに時間は深夜の3時を回っている。

シーツを広げ、ベッドに横になった。


ものすごく柔らかいクッションに体が沈むと、一瞬にして眠りに落ちた。









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ホームレスシェルターにて

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5月31日 金曜日
【カナダ】 トロント








「ヘイガーイズ!!もうすぐ7時だよー!!7時だよー!!」



ベッドの上で目を覚ました。


photo:01





ここどこだ?



そうか、ここはホームレスのシェルターだ。


スタッフの兄さんがわざわざみんなを起こして回っている。


ノソノソと起きる人、寝続ける人、キビキビと身支度を整える人。

photo:02




周りを見渡すと、やはりものすごい数のベッドが奥の方まで並んでいる。


みんな服を着替えたり、歯磨きをしたりしている。



驚いたことに、身支度を整える人の中にはビシッとスーツを決めて、今から仕事に出かけるというビジネスマンの姿まであった。








ゆうべ深夜に転がり込んだのであまり眠れていないが、眠い目をこすって俺もロビーに降りた。




そしてロビーでこのカードを渡された。

photo:03




下に切り取り線で3枚のチケットがついている。


朝、昼、夜のご飯のチケットだ。


そのチケットを持って食堂へ。





photo:04



テーブルが並ぶ食堂スペースには、すでにたくさんの人たちが朝ご飯を食べているところだった。


俺もトレーを持ってカウンターに行く。



「グッドモーニング。」


爽やかな笑顔の兄さんがミルクとパンを渡してくれる。


横にはセルフのマーガリンやピーナッツバターが置いてあり、それをトーストに塗った。




目覚ましテレビ的な朝のポップな情報番組がテレビに映っている。

お気楽な感じの兄さんが、おどけながら何かをレポートしている。

それを見ながらトーストをかじる。

photo:05












ご飯を食べ終わると、昨日の世話焼きなおじさんが話しかけてきた。


「おはよう、よく眠れたかい?」


そう言いながら、またタバコを差し出してくれた。


食堂の外の喫煙スペースで、コーヒーを飲みながらタバコをふかす。


屋根の隙間から日差しが差し込み、みんな笑顔で挨拶を交わす。

photo:06





なんて穏やかな朝なんだろう。











色んな人が話しかけて来る。


身綺麗にしている紳士なおじさん、見るからにホームレスのおじさん、ずっと手が震えている人、ずっと独り言を言ってる人、いきなり大声を出す人、


身体中、刺青だらけの元ドラマーのスティーブは足が悪いようで杖をついている。


「ヘイ、ギターマン。イギーポップはやらないのかい?ノーファンが俺は好きなんだ。」




ノーファンて(´Д` )

ちょっと洒落がきついよ(´Д` )





黒人のラッパーの兄ちゃんもいるし、アジア系の中年男性はずっとパソコンをいじっている。



みんな綺麗な格好をしている。

シャワーもあるし、洗濯もできるから。






ここはホームレスのシェルター。
保護施設であり、更生施設でもあるんだろう。

仕事をしてる人もいるし、学生もいる。

そしてそんな人たちのためのお弁当まで作ってくれる。




様々な理由で行き場を失った人たちが、ここで人間としての最低限の暮らしを手に入れ、穏やかに毎日を生きている。

仕事を手にし、ここを出て社会に復帰する人もいるだろう。


何年も暮らしている人もたくさんいる。


ここは彼らの家で、全員が家族なんだ。
なのでみな、とても優しくしてくれる。

色んなことを率先して教えてくれる。










果たして俺はここにいていいのか。

俺は旅人であり、この街に居つくつもりはないし、この街で安定を手に入れるつもりもない。


金ができれば次の街に進むのみ。


そんな人間が、本当に保護が必要な人たちに混じっていいものか。


「いいんだよ。旅をしてるんだろ?余計な金を使うことはない。ここには色んな奴らがいる。問題のあるイカれた奴らばかりさ。ホラ、あいつなんて1日中ここの床を掃除してるんだ。ヘイ!!クソ野郎!!埃がたつからやめろって言ってるだろ!!ふん、あいつはマジでイカれてるのさ。」






タバコが欲しいと言ったら、マーチンに相談しろと言われた。


マーチンって誰だ?


何人かに聞いたら、食堂の端っこに座ってるオッさんを指差した。

そのオッさんにタバコはどこで買えますか?と聞いた。


「なにが欲しいんだ?」


「安いやつが欲しいです。」



するとポケットからこっそりタバコを取り出したマーチン。


3カナダドルを渡す。


「欲しくなったらいつでも言ってくれ。」


彼がこの施設のタバコ屋ってわけか。
刑務所の中のワンシーンみたいだ。

photo:07








穏やかな昼前の時間。

みんなコーヒーを飲みながら新聞を読んだりトランプをしたりしている。

テレビでは主婦向けのメイクやファッションの番組をやっている。








彼らがここで手にしているもの。

人間が生きていく上でとても大切なもの。


それは尊厳。


清潔を保ち、ひもじい思いをせず、人とコミュニケーションをとり、柔らかいベッドで眠る。


生きる上で欠かせないもので、それによって人間としての誇りを保つことができる。





ホームレスは弱い人間。

失ったのではなく、所有する責任から逃れ、堕落の果てに行きついた場所。

昔はそう思っていた。

今も思っているかもしれない。





でもそんな人たちが、こうして保護を受けることで尊厳を手に入れ、人間としての穏やかな日々を送っている。




色んな人間がいる。


強い人も弱い人も。


日本を回ってる時から様々な社会不適合者と接してきた。


それは生まれ持ったもので、全員に強さを求めるのは無理だと思えるように、旅の中で学んできた。


だとしたらそんな生産性のない人間は社会に貢献しないから切り捨てるのか。

放っておくのか。




人間は生きている。

命の尊さは計り知れない。

凶悪犯罪者でない限り、すべての命に尊厳は確保されるべきだと思う。


ここにいる人たちの何気ない会話や、コーヒーを飲みながら新聞を読む穏やかな姿に、ホームレスの保護施設がとてつもなく素晴らしいものだと思える。



ここに来なかったら、深く考えることもなかっただろうな。

素晴らしい経験をさせてもらってる。



「オォォイ!!掃除をやめろって言ってるだろ!!このイカれ野郎!!」


スティーブが杖でレレレおじさんを突つく。

みんな知らん顔。


これもまた、ここの日常風景なんだろうな。











唯一ホステルに劣っているところは、Wi-Fiがないこと。

でもみんなすぐ近くにあるコーヒーショップに鍵なしWi-Fiを拾いに行っている。

photo:08





俺もそこで少しネットをして、シェルターに戻ってお昼ご飯。

美味すぎる。

photo:09




これが無料だなんて信じられんよ。

外で食べれば10カナダドルはする。



あ、ちなみにさっき調べたら1カナダドルのレートは100円と考えて下さい。














photo:10



ご飯を食べてから、昨日と同じ場所に路上へ。

スクエアではアクロバットやギター弾き語りなんかのパフォーマーの姿。

photo:11



photo:12





ものすごくたくさんの人が行き交っている。





俺もそこに混じってギターを鳴らす。





しかし生音じゃきついなぁ。

車の音、クラクション、サイレン、

歌がかき消されてしまう。


ヨーロッパならショッピングストリートに車が走ってないから、すごく路上がしやすかった。


ここからアメリカ大陸はずっとこんな感じでやってかないといけないのかなぁ。





ゆうべあまり寝てないせいで、体が疲れており、声が全然出ない。


やっていればちょこちょこお金は入るんだけど、歌っててあまりにも不甲斐ない声しか出ないので早めに切り上げた。

2時間やって15カナダドル。





山頭火があったよ!!食べんけど!!

photo:13






















シェルターに戻る。

クーラーの効いた快適な建物内。

みんなノンビリとくつろいでいる。



晩ご飯の時間が少し早くて、4時半から5時半の間だ。

photo:14




晩ご飯もめちゃ美味い。


18時になると、ベッドルームが開く。

みんなノソノソとエレベーターに乗ってベッドに向かう。


俺も昨日と同じベッドに荷物を置いた。

シーツが綺麗にメイキングされ直されている。


消灯時間は22時なんだけど、今日は週末なので23時と気がきいている。


消灯時間にスタッフがチェックに回ってきて、その時に人がいない空いているベッドはシーツがはがされてしまうというわけだ。






















時間があるので荷物を置いて少しだけ外に出かけた。



photo:15



金曜日の夜のメインスクエアは、人でごった返していた。

真ん中の広場では何かのイベントをやっており、ステージでイマドキのバンドがロックをかき鳴らしている。

photo:16




その周りでは若者たちがなぜか絵の具をぶちまけ合って大騒ぎしており、身体中、ものすごい絵の具まみれになったやつらがビールを飲みながら踊り狂っている。

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ケツが半分見えてるようなギャル、上半身裸のマッチョマン、どいつもこいつもタトゥーだらけ。


そこらのお上品なお婆さんやお爺さんもタトゥーだらけ。


警備の警察官もタトゥーだらけ。

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この自由な空気。

軽薄なノリ、なんでもありのエンターテイメント。


胸焼けおこしそうだ。






photo:22



その周りでは、ライブの大音量にかき消されているというのに、ドラムの路上パフォーマーが一生懸命スティックを振っており、向こう側ではクリスチャンのグループが必死にマイクでジーザスの素晴らしさを訴えている。

photo:23








なんだよこれ。


あまりにもアクションが多すぎる。


あまりの想像しさに浮つきしか感じられない。



これがカナダ。

これが北アメリカ。


誰も彼も、必死に人生を楽しもうとしている。


周りに置いていかれないように。

自分は人生を楽しんでいると、自分に言い聞かせているかのように。


ヨーロッパの人々のような、穏やかな充実ではなく、中身のないカラッポさにしか見えない。




つまらなくて喧騒に背を向けた。

photo:24












シェルターに戻ると、みんな部屋の中でくつろいでいた。


外では金曜の夜の馬鹿騒ぎが繰り広げられているというのに、ここにはそんなものはひとつもなかった。



生きる上での最低限のものがここにはすべて揃っている。


尊厳を与えられる者、尊厳を見失う者、尊厳にツバを吐く者。




ここはカッコーの巣の上か。
聖者の住む街か。



コーヒーを飲んでベッドに入った。

photo:25










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トロントの地下道で歌う

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6月1日 土曜日
【カナダ】 トロント








ここはあれですね。


沈没スポットですね。


photo:01







新たな沈没の街、トロント。


バッグパッカー垂涎の内容。

photo:02







でも、全部無料だからといって押しかけないで下さい。


ここの根底にはクリスチャンの教えがあります。

なのでアルコールは厳禁です。


僕は運良く敬虔なクリスチャンであるバーバラがここの知り合いだったので口をきいていただいたけど、突然行って泊めて下さい、はやっぱりナシだと思う。

多分受け入れてはもらえると思うけど。




これまでも、野宿していますと言うと、ホームレスシェルターに行きなさいと住所を教えてもらったりしていたけど、自分からは行かなかった。


駐車場とかで炊き出しをやってても、空腹を我慢して通り過ぎていた。



これからも自分から行くことはない。


今回は偶然のバーバラとの出会いからの賜物なので、今の状況を楽しんでみようと思う。










週末は消灯時間も遅いが、起床時間も遅い。

みんなゆっくりと週末の朝をベッドで過ごしている。


彼らは仕事をしていないからそんなの関係なさそうだけど、そういう一般の社会人と同じに扱うところに彼らへの配慮がある。




photo:03



朝ごはんを食べ、日記を書いたら、洗濯。



受け付けにあるランドリー予約表に、自分の名前を書きこみ、自分の番がきたら洗濯機に汚れ物を放り込む。


今日は天気が悪いので、ちゃんと乾くかなぁと思っていたんだけど、しっかり洗濯機の横には乾燥機が置いてある。


もう至れり尽くせりだな。






外でタバコを吸いながら、周りのみんなのことを見る。


タバコちょうだいと1人が言うと、みんな率先してタバコを差し出す。


ちょっとスタバ行くんだけど1ドル足りないからくれ、と誰かが言うと、1ドルじゃ足りないだろうと2ドルを渡す人。






彼らは貧しい。

お金はほとんど持ってないはず。

でも、こうした貧しい人たちってのは所有欲がとても少ない。

失うことを全然恐れていない。



金持ちはケチというが、たくさんの物を持ってしまったら失うことが怖くなってしまうんだろうな。



貧乏でもいいから、彼らのように分け合う心を持っていたいな。

















洗濯の時間があったので、ずっと折り紙していた。

photo:04



なかなか上手になってきたな。










お昼ご飯を食べてから、街に出た。


この週末までトロントで歌って、次の街に行くとしよう。


土曜日のメインスクエアは相変わらずすごい人ごみ。


photo:05





ドラムやら、バンドやら、水晶玉のジャグリングやら、アクロバットやら。


photo:06





広場の真ん中ではフォルクローレのグループがお決まりのコンドルは飛んでいくを、野外用のスピーカーが轟かせている。




それぞれがガンガンにスピーカーを使って音を垂れ流しているので、もう音が混ざりまくって騒々しいことこの上ない。





俺も少し離れた場所に陣取ってギターを鳴らすが、なにせこっちは生音。


車とトラムとパトカーのサイレンで、歌がかき消される。

photo:07














こんなとこじゃやってらんねぇ。


ああ、ヨーロッパはホントにどこの街でも路上やりやすかったなぁ。


1時間もやらないで切り上げた。

お昼のあがりは、たったの7カナダドル。













もはや地上はどこもやかましすぎるので、メインスクエアの下に張り巡らされている地下道を歩き回ってみた。



デパ地下と地下鉄が混在する複雑な通路をさまよっていると、ちょうど3つの入り口が交差する通路を見つけた。


ただの通路なのでお店もなく、まさにおあつらえ向きの場所。



こりゃいいや、と思ったら………









photo:08



まぁそんないい場所には、先客がいるもの。


爺さんがギターを鳴らしていた。




コードもろくに弾けておらず、ウヒョウ!!ウピョオオオ!!と奇声を発してるだけの、なかなか奇抜なジャンルの弾き語りをしているので、交渉してみた。



「あとどれくらいここでやりますか?僕もやりたいんですが。」


「え?あ、あー、ライセンス持ってるの?」




やっぱりトロントの路上はライセンスが要るんだな。


もちろんこの爺さんもライセンスなんか持っていない。

持っていない同志なら譲り合いが路上のルールだ。


18時半に交代することにして、俺は一旦シェルターに戻った。












シェルターに着くと、たくさんの人でごった返していた。

photo:09




あれ?こんなに泊まってたっけ?




と思ったら、ご飯だけ食べに来てる人たちだった。


週末は食堂を解放して、宿泊者以外にも食事を振舞っているよう。

photo:10






なので、変な輩も多い。

意味もなく大声出してる奴とか、シットとマザーファッカーをずっとつぶやいてる奴とか。


ここに宿泊してるみんなは、食べ終わった食器はキチンと片付けるのだが、今日だけ来てる下品な奴らは食べるだけ食べてテーブルを汚したまま、さっさと出ていく。



同じホームレスでも、ここにいる人たちはみんなキチンとマナーを持っている。

尊厳は人を変える。





ご飯を食べ、18時になってからベッドルームが開き、ベッドを確保してからもう一度街へ。


さっきの地下通路に行くと、爺さんシンガーはどこかへ消えていた。







トロントの地下通路。

ギターを鳴らす。

響いて気持ちがいい。

歌も声を張り上げなくていいのでしっかり歌える。



地上のあの、無理矢理にでもこちらを向かせようとするカツアゲみたいな騒がしさから離れ、この地下通路に落ち着いた音楽を流した。



みな微笑みながらお金を入れてくれる。

photo:12






しかしやっぱり人の数からすると、もっと入ってもいいもの。

反応は渋い。


まぁあれだけ毎日ドンチャン騒ぎのパフォーマンスをカツアゲみたいに見せられてるんだ。


ちょっとやそっとのことじゃこちらを見もしない。




そしておちょくってくるバカも多い。

イエーイとか言って前でふざけて、ポケットに手を突っ込んでお金を入れるフリをする。


フリ。


そして俺の反応をニヤニヤしながら見ている。


ヨーロッパでも、この入れるフリ、をする奴はたまにいたけど、ここではその確立が高い。


人のことなめてる下品なやつらが多い。









まぁそれでも頑張って歌い、

夜のあがりは23カナダドル。




今日の合計30カナダドルか。

いい場所を見つけたことだし、お昼からここでやれば50カナダドルは稼げるだろう。

ここなら雨が降ってもできるし。












photo:13



今こうしてシェルターに入ることが出来、お金を使わずにご飯と寝床を確保できている状況をもっと有効に使わないとな。



新しいレパートリーを加えたり、曲作りもしないと。



最近、缶詰とお粥とパンしか食べてなかったから体もすごく痩せ細っていた。
ここにいれば確実に太る。
少し太っときたい。







規則正しい生活。

しっかりと栄養あるご飯を食べ、歌って稼ぐ。




ああ、最高の場所だな、ここ。





隣のベッドのデブなおっさんのハンマードリルみたいなイビキ以外は。

photo:11



もう今も真横でコンクリートはつってるような爆音。

勘弁してくれ………




おやすみなさい。









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カッコーの巣

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6月2日 日曜日
【カナダ】 トロント





photo:01



おじさんたちに混じって朝ごはんを食べ、みんなでテレビを見上げながらカードゲームをしたり、チェスをしたり。



朝のテレビは情報もの。

お昼前は奥様向けのファッションもの。


ゆうべは土曜日の夜なので土曜ロードショーの映画をやっていた。



新聞の裏にはエロい女の写真。


建物の階数の数え方も、2階は2階と日本と同じになったし、コンセントの形状も日本と同じ。





色んなところが日本に近づいたな。













みんなが利用しているWi-Fiスポットは近くのカフェ。

俺もそこに行き、お店の外でネットにつないでニューヨークの宿を検索してみた。





ニューヨークには1泊1000円みたいなバッグパッカー値段の安宿はない。



相場は50ドルってとこか。


安くても30ドルはする。



世界一の大都会だもんな。
それくらいの値段はするか。



野宿したいところたけど、さすがにニューヨークでは野宿する気はしない。


そこらじゅうの奴らが普通にピストルを持ってる国だからな。


10ドル欲しさにバキューンなんてよくあることだそう。



他にもニューヨークの危険っぷりは映画でさんざん見てきている。


高かろうが宿には泊まろう。





調べていたら28ドルっていうところがあった。

でもそこ日本人宿みたいだ。


ニューヨークで日本人宿。

なんか気が進まないなぁ。


ホントは真夜中のカウボーイみたいな出会いがニューヨークの理想なんだけど。



路地裏や、タクシードライバーたちの溜まり場みたいな深夜のカフェといった、トムウェイツの歌の中をさまよい歩きたい。






あのニューヨークだもんな、


あのニューヨークだ。


イカれた野郎がいっぱいいるだろうな。


素敵なラブロマンスがたくさん溢れてるんだろうな。


凄腕の路上パフォーマーが腐るほどいるんだろうな。



映画で見てきた刺激的なニューヨーク。
でも現実は映画よりももっともっと刺激的なんだろうな。

楽しみすぎて怖い。





とりあえず3日くらいこの日本人宿に泊まって、面白いことを探そう。














photo:02




お昼ご飯を食べに戻り、そのまま路上に出かけた。



昨日と同じ地下道に行ってみると、なにやら美しい音が響いていた。


なんの楽器だこれ?



近づいてみると、それは二胡だった。

中国の伝統楽器の二胡。

演奏しているのはもちろんアジア人のおじさんだった。



麗しい音色が地下道に沁み渡る。



中国人のおじさんは横に看板を出していた。

サブウェイミュージシャン、と書いている。


どうやら彼は正規の登録を行っているパフォーマーみたいだ。





その看板を見ていたら、音色がふと聞き覚えのあるメロディに変わった。


ん?聞いたことあるぞ、このメロディ。



それはサクラだった。


久しぶりに聞く日本の、儚く、東洋的な旋律。


中国人のおじさんは俺にニコリと笑った。


彼はプロだ。



「兄さんはどこで演ってるんだい?」


「昨日はここでやりました。」


「スケジュールは知ってる?」


「いえ、知りません。」


「よし。ここは北通路だから、この道を突っ切ったところにもうひとついいスペースがある。そこは南通路だから、今日は誰もいないはずだよ。ゴッドブレスユー。」










おじさんの言うとおりに、クイーンストリートの地下を南に下る。

photo:03



地下だというのに、まるで地上かと見まがうほどにお店や建物が乱立しており、たくさんの人がひしめいている。

photo:04















ショッピングエリアを抜けると、そこには路上向きのいいスペースがあった。

よし、ここでやるか。

photo:05








ギターを鳴らす。

カナダの地下。

地下鉄が通過すると、ゴーっと音が通路に響く。

スターバックスのカップを持った人々が行き交う。


白人、中国人、日本人、黒人、アラブ人、ユダヤ人、


色んな人がいる。



ヨーロッパでは移民の規制が厳しかったり、古くからの土地ということもあってか、ほとんどが自国民ばかりだった。

日本人が1人で歩いていたら振り返られるほど珍しい存在だった。

それが逆に心地よかった。





でもここ北アメリカでは、本当に様々な人種が入り混じっている。

みなそれぞれに生活を手に入れ、この新しい国で堂々と暮らしている。




なんだか腰が座らない。

座ってもいい椅子が見つからない。

まるで初めて来た時の東京みたいに、浮ついて寄る瀬がない。




お金は入る。

子供もお金を入れてくれる。

でも折り鶴を渡しにくい。


文化が入り混じりすぎて、物事の中心が定まらないようだ。



北アメリカ、ここは人間の夢と欲望が作り出したテーマパーク。




お昼のあがりは30カナダドル。

















シェルターはエアコンがききすぎていて、眠る時に備え付けの薄い毛布1枚では寒い。

ゆうべ寒さに凍えたせいで喉が痛くなっている。


こりゃまた風邪ひいたな………













photo:06



シェルターで晩ご飯を食べ、荷物を持って上がってベッドを確保。

photo:07











喉が痛すぎてこのまま寝てしまいたいところだけど、頑張ってもう一度路上に出かけた。


昼と同じ南通路で声をあげる。


しかし喉の痛みは増すばかりで、鼻水も出てきた。



こりゃまずいな。

大人しくシェルターに戻った。

夜のあがりは8カナダドル。

photo:08























シェルターに入ると、受け付けのとこにあの世話焼きおじさんがいた。

初日にタバコをくれ、いつも何かと気遣ってくれるこのおじさん。


ここにいる変わり者の人たちの中では、だいぶマトモな存在。


そのおじさんが何やら叫んでいる。



「な!!ちょ、ちょっとでいいんだ!!そ、そ、外に、行かせてくれ!!行かなきゃ、い、いけないんだ!!ホラ!少しだから!」



何かに怯えてるように錯乱している。



「ちょ、ちょっとだけ!!俺は大丈夫だから!!ここにいたら、い、いけないんだ!!」


「わかった、大丈夫。でも1回中に戻ってタバコを1本吸ってくるんだ。ホラ、これを吸ってくるんだ。」


「あ、ありがとう!!で、でも行かないと!!」



「ハイ、おじさん、どうしたの?落ち着きなよ。」


「や、やぁ、君か。俺は外に行きたいんだけど、か、彼らがダメだと言うんだ!!」



そしておじさんは何かの錠剤の薬を半分に割って飲んで、落ち着きを取り戻してベッドルームに入っていった。





おじさんは強迫観念に襲われていた。


やはり、ここにいるのは何らかの理由で社会生活から弾かれたものたちなんだな。


俺もベッドルームに戻り、咳きこみながらベッドに入る。

隣のベッドのマンガみたいに太ってるおじさんは、言葉が喋れない。

鼻ヒゲをチョビと生やした愛嬌のある顔をしている。

photo:09







いつも死ぬんじゃないか?っていうような咳や嗚咽を繰り返しているんだけど、今夜はいつにも増してひどい。



「コポコポ!!ヒキュッ!!………コオオオォォォ!!」



もう苦しそうで聞いてられない。



するとそれに耐えられなくなった他のおじさんが立ち上がって鼻ヒゲおじさんの前に立った。


「ヘイ、お前はな、癌なのさ。肺のやつさ。早く病院に行ったほうがいい。お前は癌なのさ。」


「ひぃぃぃいいいいい!!」



意地悪にそんなことを言うおじさん。

鼻ヒゲおじさんは悲しい声をあげて顔を歪める。





俺も咳きこむ。

明日は良くなってるといいな。









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また風邪かよ………

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6月3日 月曜日
【カナダ】 トロント







最悪。

やっぱり風邪は悪化した。

喉に有刺鉄線があるみたいに痛い。


鼻水と体のだるさ。

今日は路上は無理だ。

photo:01









アメリカに行くまでに用意すべき金。



ここからニューヨークまでのバスが85ドル。


アメリカ出国用のバスチケットが55ドル。


ニューヨークでのホステルの滞在費、3日分で100ドル。


あとすっかり忘れてたけど、ナイアガラの滝も行かないと。
多分トロントからの往復のバス代と滝の入場料で50ドルくらいだろう。




最低でもこれらはすべて稼ぎたい。
手だしは絶対にしないぞ。








そんな中で時間を無駄にしたくないというのに風邪なんかひいちまった。


まぁ、この寝床と飯が確保できてる状況での病気は不幸中の幸いかな。



まったく知らないカナダの都会で外で病気なんかなったら悲しすぎるところだ。



カナダは観光での滞在はビザなし3ヶ月。6ヶ月だったかな?

アメリカも3ヶ月。



ヨーロッパをぶっ飛ばしたおかげで2ヶ月は予定より早く進んでいるので、そこまで急ぐ必要はない。

せっかくだから、今の状況でやれることをたくさんやってしまおう。











photo:02



テレビでは四角いタイヤで車が走ったらどうなるかを、いい大人が楽しそうに実証している。

photo:03



こういう下らないことに一生懸命になるのってアメリカっぽいよな。















風邪で路上が出来ないなら、それはそれでやるべきことはある。

ギターを持って外に出た。


近くにあるセカンドカップという大きなチェーン店のコーヒー屋さんの前でWi-Fiを拾う。


そして久しぶりにYouTubeをサーフィンした。

いつも慌ただしく動いているから、こうして1日を音楽に費やせるのはとても貴重だ。


色んなミュージシャンの曲やパフォーマンス、詩を聞き、勉強する。


日本語から遠ざかっていると、語彙がドンドン乏しくなっていくし、人の音楽を聞いてないと凝り固まったコード進行やメロディしか出てこなくなる。


今新曲ができないのは人のライブを観てないからだろうな。




今日は1日中、アングラからメジャーまで様々な音楽を聞き漁って、そしてギターの練習をしていた。

ていうか安全地帯カッコよすぎ。
















シェルターには色んな人がいる。

ここは精神病院ではない。

でも社会からはじかれた人たちだから、なんらかのクセってやつを抱えてる。

photo:04




中にはいたってマトモな人もいるし、かつてはなかなかの地位を持っていた人もいる。

ギターのスケールをずっと練習してる人も。



俺もすっかりここに馴染んでいる。

少しギターが弾けて、少し歌が歌えるだけの、なんの取り柄もない貧しいアジア人。


人間なんて薄皮1枚の違い。




明日はバスターミナルに時間を調べに行こう。












さて、みなさん、いつもランキングのクリックをしていただいてありがとうございます。


みなさんのおかげで世界一周ランキングの1位にさせてもらってます。


もっと言うと旅行カテゴリーでも1位です。
25500ブログ中の1位とかなかなか勃起レベルです。


あ、下ネタとかやめよう。
カナダだし。




総合ランキングでは32位です。

このぶろぐ村には、725000ブログが登録しているようですが、もうここまで来たら総合ランキングのトップ10入りとかしてみたいですね。


世界一周カテゴリーからの総合トップ10入りって過去あったのかな。

トップ10って犬とか猫のブログばかりですね。



読んで下さる方が増えるのは嬉しいことです。

みなさん、クリック本当にありがとう。


新大陸でもよろしく!!!







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ホームレスの恩返し

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6月4日 火曜日
【カナダ】 トロント








風邪がきつい。


やっぱり1日じゃ治らないか。


喉と鼻が痛くて、声もまともに出ない。


早く歌いに行きたいのになぁ………








少し散歩に出かけた。


photo:01



photo:02



photo:03




早朝のオフィス街は出勤の人たちが入り乱れている。

みんな仕事に向かっている。



俺はフラフラと湖のほうへ歩いた。

photo:04



photo:05





穏やかな湖面。

後ろには高層ビルの山。

綺麗な場所だけど、なんだか腰をおろせないんだよな………












photo:06




仕方なく今日もおとなしく曲作りに没頭。

これはこれでとても大事な時間。


路上をやってたら取れない時間だからな。





photo:07



近くの公園で、木漏れ日の中、ギターを鳴らす。


散歩をしてる人。

犬とボールを投げて遊んでる人。

ジャグリングの練習をしてる人。


色んな人がいる。

ギターを弾いていたって誰も見向きもしない。

それがとても心地よく、曲作りに集中できる。









photo:12



お昼にシェルターに戻りご飯を食べていると、アルが声をかけてきた。




アルはこのシェルターの中で常にギターを抱えて、いつも3コードで自分の作った歌を歌ってる。

常に。

誰も気にもとめていないが、彼はここの専属シンガー。





「シットだぜ、弦が切れちまった。」



そう言って5弦のないギターを弾いている。



俺のギターから5弦をはずしてアルにあげた。


「いいのかい!?フミが困るだろう?」


「大丈夫だよ。俺は新しいセットを持ってるから。使い古しでごめんね。」


「使い古しで充分さ!!ありがとう!!」



そう言ってアルは弦を張り、またいつもの調子で3コードを弾いた。

photo:13



アルとスティーブ。












photo:09



お昼からも近くの公園で曲作り。

なかなかいい曲が固まりそうな予感。



ミユキさんとの、あのハチャメチャな2人旅の風景を曲にしたかったんだけど、とてもいい感じに仕上がりそうだ。




「ハイ。」


ギターを鳴らしていたら、シェルターにいる兄ちゃんがやってきて隣に座った。


彼はセルビアの出身。


「へー、コソボに行ったんだ。どうだった?どう感じた?あそこはセルビアの地域なんだよ。」



彼は熱心にそのことを聞いてきた。

コソボしか行っていない俺からしたらコソボは独立した国だ。
しかしもちろんセルビア人はコソボを国と認めていない。



小さな国や地域が入り乱れる、侵略と解放の歴史に彩られたヨーロッパ。


そしてここはヨーロッパの人間によって切り拓かれた新しい大陸、カナダ。



どこまでものびる直線の国境線。

広大な未開の森。


しかしここももちろん国だ。



兄ちゃんはどこからか手に入れたマリファナを巻いて、プカプカとくゆらせる。

俺もあのヨーロッパの風景を思い出しながら、ギターを弾いた。















photo:10



シェルターに戻って晩御飯を食べ、また公園で曲作り。



21時になってベッドルームへ。











ベッドの上で日記を書いていたら、誰かがやってきて俺のベッドの上にグミを置いた。


見ると、それはアルだった。


「弦、ありがとう。」



そう言ってアルは自分のベッドに戻っていった。

photo:11









たかが使い古しの弦1本なのに、こうして心のこもったお返しをしてくれる。


彼らは恩をとても大事にする。



喫煙スペースでタバコをくれと言われてあげると、後から必ず何かお返しをしてくれる。


25セント回してくれと言われて1ドルあげたおじさんも、それから一気に優しくなってシェルターの中で何かと気を遣ってくれる。





ギブアンドテイクのゲーム。

でも素晴らしいゲーム。






彼らはなにも持ってないけど、人間としての大事な部分をむきだしで持っている。


暖かい気持ちで眠りについた。





明日には風邪も治ってるかな。












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岩手弁はエロいですね

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6月5日 水曜日
【カナダ】 トロント







photo:01



ふと気がついたら、隣のベッドの太っちょおじさんがいなくなっていた。


言葉の喋れない、いつもすごい嗚咽を吐きながら寝ていたあのおじちゃん。





そして、そうだ、最初ここに来た時にタバコをくれたあの世話焼きおじさん。
強迫観念に襲われて怯えていたあの夜以降、見ていない。





なんだかふと怖くなった。

みんなどこかに送られたのかな。













photo:11



誰かが消えたなんて、そんなこと関係なく、シェルターの1日は当たり前に始まる。



朝ごはんを食べ、マーチンからタバコを買い、陽気な朝のニュース番組を見る。




レレレおじさんは相変わらずホウキを持って掃除している。









咳はまだ止まらないが、風邪はほとんどよくなった。

俺もそろそろここから出よう。















ここを出る前に、せっかく洗濯機が使えるんだから、汚れていた寝袋を洗った。


しばらく洗ってなかったからちょうどよかった。
乾燥機もあるし。





のだが………





洗濯が終わり蓋を開けると、中に羽毛が散乱していた。



うわ!!!


破れてやがる…………


寝袋が破れて中の羽毛が、飛び出しまくっていた。





あああ…………


こりゃもうダメかな…………


思えばこの1年、ほぼ毎日のように使ったもんな。



雨の日も風の日も雪の日も、びしょ濡れのままバッグに突っ込んだりしてたもんな。



もう元はとったよなぁ。











でも…………



この寝袋は自分で買ったものではない。

日本を出る前に、大阪の早苗さんが餞別にくれたもの。


ものすごくあったかくて、軽くて、かなり上等なやつだ。


まだまだ働いてもらいたい。





受け付けでソーイングセットを借りて、飛び出していた羽毛をかき集め中に戻し、ビリビリに破れている穴を縫い合わせる。



裁縫なんて中学校の家庭科の授業以来だよ。

どうやって縫うかなんて全然覚えてないけど、針で指を刺しながら一生懸命縫った。


糸が絡まったりして、ファックを30回くらい言いながら2時間ほど。




我ながらなかなか頑丈に仕上がった。




よし!もう裁縫マスターだ!!













寝袋を乾燥機にかけて、外に出ようとすると、ギター弾きのアルが声をかけてきた。



「セカンドカップに行くのかい?俺もあっちだから一緒に歩こう。」



アルは足が悪い。

いつも急に激痛が襲ってくるようで、苦痛に表情を歪める。



そんなアルは新しいアパートが見つかっているようで、そこの準備ができるまでの期間だけ、シェルターに泊まっているそう。



「トロントの次はベリーに行くのかい?グレイハウンドで30ドル!?おいおい、そんな高くなくてももっと安く行けるぜ。」


アルがバス停を教えてくれると言うので、一緒に向かった。












photo:03




中央駅の近くにあるバスターミナルで、アルがバリー行きの安い移動を聞いてくれた。


電車で12ドルで行けるみたい。


おいおい、グレイハウンド高すぎだ。



「フミ、バリーとピーターボロを回ってからまたトロントに戻ってくるのかい?」


「戻ってくるよ。」


「よし、なら俺のカード使っていいよ。これでたいがいのとこ行けるから。でもちゃんと戻ってきて返してくれないとダメだぜ。」








アル…………


なんて優しい奴なんだ。

たかが弦1本から生まれた2人の関係。


あげたのがエリクサーの弦でよかった。


俺たちの関係はなかなか切れないぞ。












photo:04



それからセカンドカップに行き、ブログのチェック。


たくさんのコメントありがたいな、と思っていたら、リリ記さんからコメントが来ていた。







あ、リリーさんから告白されちゃうのかな。

いやー、まいったな、俺彼女がいるからな。


照れちゃうな。



んー、なになに。






「アメリカに入国するにはカナダ・メキシコに抜ける出国チケットだとダメですよ(^-^)/」















あああ……

聞きたくねぇ(´Д` )


こんなめんどくさい情報、聞きたくないいいいいいいいい(´Д` )!!!!!


もう、入国厳しい国とか嫌いだああああああああ(´Д` )










と嘆いたところで始まらないので、ネットで調べてみた。



「アメリカ、入国拒否されました!!」


「アメリカ入国には日本への帰国チケットが必須条件です!!」




というムカつく情報のオンパレードを超無視しながら、探し回ったところ…………





たしかに隣接国への出国チケットでは効力がない、という文章を見つけた。

隣接国とはカナダ・メキシコへのこと。



あとこれは有名な話だけど、キューバに飛ぶチケットだと最悪。

アメリカはキューバと国交がないので、そんなチケット持ってたら確実に入国拒否。










ああああ(´Д` )

メキシコ国境近くのテキサスの街から、ちょびっとメキシコ側に入るバスチケットなんて、お前ナメテンノカ?レベルだよな…………


そんな安いチケットどうせすぐ捨てるんだろ?ってのが丸わかりだし…………






じゃあどうすればいいんだ(´Д` )


おっしゃる通り、アメリカから日本への航空券を用意していけっていうのか?

10万超える。


そんなダミーのためにかけられる金額じゃねぇ。




じゃあ南米に飛ぶチケットはどうだ?

中米もガッツリ回りたいから、また北上するのはめんどくせぇ。









もう嫌だチクショー!!!!

のんびり何のチェックもなく、気ままに旅させてくれよおおお!!!!





あ、そう言えばコメントで、スカイスキャナーってアプリが便利ですよって誰かが言ってたな。


試しにダウンロードしてみた。



そして使ってみた。








なんだこれ?












ゲロ便利なんですけど。






今までクソめんどくせえ検索を繰り返していつもキレそうになって途中で投げ出していたのに、このアプリだったら、目的の飛行機の最安値が2秒で見つかる。


しかも予約までの流れもゲロスムーズ。






おおお………

みんなこんな便利なやつ使ってやがったのか………


旅しやすいいいい!!!!!!








早速チケットを調べまくる。

が、なかなかいいのが見つからない。


んー、ていうかどこに飛ぶチケットならアメリカさんは満足してくれるのかな。



あ、そういえばリリ記さんはグアテマラ行のチケットを買いましたって書いてたな。




ていうかグアテマラってどこだ?

マラの種類か?

リリ記さんスケベだな。










試しに調べてみたら、




アメリカ ~ グアテマラ

9000円











9千円。














こっ……!!!




な、なんだこの安さは!!!


こんな飛行機があるのか!!





しかもマイアミから飛んでいる。


イスラエルで会った旅の達人、カオルさんが必ず行くんだと言っていたあのマイアミ。




日付はアメリカ入国予定日から2ヶ月後。

完璧。





す、す、すすすす、すぐ予約を予約よよよよよよ!!!!


クレジットカードねええええええええチンカスうううううううううう!!!!!!!!






スピリットエアーっていう航空会社。

激安で有名なとこみたい。

とりあえず、トロントにオフィスはありますか?とメールしといた。


もし直営店がなくても、旅行代理店で予約できるだろう。







よし、完璧。

出国のチケットさえあればかなり強い。


ただ2ヶ月先っていうところが問題。

その間の滞在費は持ってるのか?と必ず聞かれるはず。

残りの日数、カナダで頑張って稼げば2000ドルまでは持っていけるはず。


しかしそれでは充分ではない。




ここでかなりの威力を発揮してくれると踏んでいるのが、アメリカ国内から、ウチに泊まっていいですよー、とお誘いをして下さってる日本人の方々の存在。



彼らの住所をお聞きし、ルートを立て、キチンとプランを作る。



友人の家に泊まる、というのは入国審査官にとってあまり印象の良いものではないようだが、それでもしっかり細かい住所や連絡先を記載したプラン表を作ってけば有利に働いてくれるはず。




とにかく、出国の航空券をゲットすれば、かなりの威力があるはず。


リリ記さん、貴重な情報ありがとうございます!!


好きです!!


チューさせてください!!













photo:06



そんなこんなで、ネットいじくりまわしていたので、あっという間に夕方になってしまった。



シェルターに戻ると、食堂にはまばらにおっさんたちが座っていた。


そんな中に見慣れないアジア人の兄さんが座ってた。

photo:07








新顔なのかな?と思いつつ、同じテーブルにつく。






「あ、もしかして金丸さんですか?」



その兄さんは日本人だった。

ていうかなんで俺のこと知ってるの!?



「いやー、探しましたよ。僕の家のルームメイトの女の子が金丸さんのブログ読んでて、僕も読んでるんですけど、金丸さんがトロントに来てるというのでその女の子が昨日街中を金丸さん探し回ったんだけど見つけられなかったんですよ。なので今日は僕が探し回っていたんです。」





な、なんか極秘ミッションみたいやね(´Д` )




「もしよかったら僕らの家に泊まりません?その女の子も一緒に飲みたいって言ってたし。」








な、な、な、なんだそのエロいお誘いは(´Д` )


行く!!!!

その女の子とイク!!!






やったーーーーー!!!!!!

このシェルターでもなんの不自由もないけれど、日本人の人たちが住む家へのお誘いだもん!!!

嬉しすぎる!!!



行く!!!!



というわけですぐに荷物の準備。

ベッドルームからキャリーバッグをおろすと、みんながこちらを見てくる。

みんな、俺は新しい場所に移るよ。


おっと、忘れたらいけない。

寝袋を乾燥機にかけていたんだ。


ちゃんと乾いたかなぁー。





















ねぇ。



寝袋がねぇ。





ふーん、























お、お、お、お、おおおおおおおららあああいあああああああああああああああああ!!!!!!!!



ころころころころ、ころ!!ころ!ここころ!殺すうううううう!!!!!


盗ったやつマジ殺すうううううううう!!!!!!!!





え?!嘘だろ!?

寝袋だぞ?ただの?

いや、彼らにとったらめちゃ使えるものか。


ていうか朝あんなに一生懸命縫ったのお前のためじゃねえええええええええええ!!!!!!!



ころころかろ、こらこらから、ころろこ、殺して殺すうううあううう!!!!


パワーゲイザー食らわすううううううううう!!!!!!



どうせアホの仕業だから、そこら辺ウロついてるはず。
シェルターの入居者だったら使ってれば2秒でわかる。



大事な大事な寝袋。
早苗さんが餞別でくれた寝袋。
過酷な旅もあれがあったから乗り切れた。

寝袋がなければ俺の旅は成立しない。



草の根わけても犯人探し出してトリプルパワーゲイザーで殺す。


鳳凰脚で蹴り殺す。





で、でも、食堂で日本人の兄さん、ナオトさんが待っている。


ありがたいお誘いをして下さってる。
待たせられない。




仲のいい元ドラマーのスティーブに相談しといた。


「ああ、ここにいる奴らはみんなクソだ。誰も信用したらいけない。クソ盗っ人どもだからな。俺も一度携帯を盗られた。服があれば服を盗むし、財布があれば財布を盗むし、タバコがあればタバコを盗む。自分の物から目を離したらいけないのさ。ファッキンシェルターなのさ。」



探しとくからまた明日来なと言ってくれたスティーブ。









はぁ…………

突然降りかかった素晴らしいお誘い。

と同時にやってくる悪い出来事。


ほんと上手くできてやがるもんだ。



また明日来よう。
ちゃんとみんなに挨拶もしたいしな。
















ナオトさんはワーキングホリデーでカナダに来ており、もう1年ここに住んでいるそう。

夏からはこれもまたワーキングホリデーでイギリスに行くんだそう。


海外で住んで働くってとても刺激的なことだろうな。








トラムに乗って20分ほど郊外へ。

あ、ヨーロッパでは路面電車のことをトラムって言ってたけど、ここではストリートカーって言う。


3ドルでトラム、バス、乗り放題で、実は空港まで行っており、27ドルのダウンタウンエクスプレスになんて乗る必要ゼロ。

photo:10












トラムは中心部のビル群を抜け、巨大な中華街の漢字の森を駆け抜け、落ち着いた郊外の地域に着いた。

photo:05




トロントはでかい。

中心部だけでなく、かなり広域な範囲に街が広がっている。



この郊外の静かな地域には品のある住宅が並んでおり、カナダの本当の顔がある。


田舎の方に行けばもっと昔ながらのカナダが見られるだろうな。

photo:08



photo:09











そんな住宅地の中にナオトさんたちが住んでいる一軒家があった。

photo:12




これぞ北アメリカの家といった雰囲気。


家主がいて、部屋を間借りして住んでいるそう。

ホームステイといった感じ。

ちなみに家賃は480ドル。


高い!!と思ってしまうが、日本と同じ金銭感覚でいけばそんなでもないのかな。









お酒を買い出しに行き、ビールとワインとカナディアンウィスキーをゲット。

カナダではお酒が厳しく規制されていて、普通のスーパーやコンビニではアルコールは買えない。


酒屋さんでしか手に入らない。


さらに路上で飲むことも禁止されている。


そして値段もそこそこ高い。



「宮崎にあそびに行ったときはよろしくお願いしますね。」


そう言っておごってくださったナオトさん。
ありがとうございます!!!













photo:13



photo:14



ナオトさんの家の家主さんはリックというお爺さんだった。
65歳。


「ハーイ、いらっしゃい。遠慮せずにくつろいでね。」


どっからどう見ても優しいお爺さん。

俺の手をとって優しくナデナデしてくれる。

photo:15







彼はゲイ。

筋金入りのゲイ。





このトロントは同性愛者たちの街とも言われているそうで、ゲイやレズビアンの聖地といった感じ。



そんな聖地の名を象徴する物凄いイベントがあるらしく、同性愛者たちが何百人、何千人で通りを練り歩くパレードがあるんだそう。



全裸で。



男も女も、全裸で。



チンチンにピアスしまくってる人とかいっぱいいるらしい。



まさに北アメリカ。

イかれたオープンさ。




そのイベントがなんとこの月末にあるんだそう。


「あー、ここだったらバーベキューとかも出来るし、リックも好きなだけ居ていいって言ってるし、金丸さん、もっとカナダにいればいいのになぁ。」







ああああいいい(´Д` )

だってもうニューヨークの宿、予約しちゃってるもん(´Д` )


キャンセルは宿代全額負担だもん(´Д` )



これだから旅で先々に予定を立てるのって嫌なんだよ…………


















みんなで飲んでいるところに女の子が帰ってきた。

photo:16





「ひやあああああああ!!!!金丸さんだああばばばばばば!!!」



クリクリした目の可愛い彼女はてぃさん。

ブログに、トロント在住ですとコメントをくれてたてぃさんだった。

素朴な雰囲気にすごく落ち着く。

彼女もワーホリで来ていて、マッサージのお仕事をしているそう。

もちろんエロいマッサージではなく。




「泊まってくんですよね!!泊まってくんですよね!!やったー!!ビール飲むはんでグラスどごだぁ?」



岩手弁が出て超可愛い(^-^)/
ていうか岩手弁、これでいいのかな?








リックの彼氏である韓国人のおじさんもやってきて、みんなで飲みまくった。


ずっとシェルターにいたからかなり久しぶりのアルコールであっという間に泥酔してしまった。



途中から記憶なし。




photo:17



今夜の最高のお誘いにしても、リリ記さんからのアドバイスにしても、ブログをやっていたおかげでこんなにもたくさんの人から助けられ、そしてたくさんの人と出会うことが出来ている。




ブログやっててよかった。

そして優しいみんなに心から感謝します。



「カナダ人のおじさん、マッサージしてるとすぐにヒュって大きくなるんです!!そしてそれを見せでぐるんだぁ!!見せでくるはんですぐカバーかけるんだぁ。お腹触ったら男の人はそうなるのがぁ?ほんとカナディアンはさっぱほでねがら!がっつらむがづぐ!!」




て、てぃちゃん(´Д` )


なに言ってるかわがんねぇがら(´Д` )


photo:18








みんなだいぶ酔っ払ってたな(^-^)/






あ、ちなみにプリンスはトロント在住らしいです。






あ、それと総合ランキングが26位になった!!

たくさんのクリック本当に感謝します!!

ランキングのために旅してんのかチンカス!!って言われそうだけど、気になるんだから仕方ない。



いつも旅の中の楽しみに付き合ってくれてありがとう。


風邪も治ったからガンガン行くぞ!!


ハイ、チーズ!!



photo:19









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シックスのナイン

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6月6日 木曜日
【カナダ】 トロント







ベッドの上で目を覚ます。


ここはシェルターか………?



いや、違う。
ここは昨日お誘いしてくれたナオトさんの部屋。





ううう………飲みすぎた………

気持ち悪い…………




いや、あんまり飲んでないんだけど久しぶりのアルコールだったからこんなに効いてしまっている………






うげええええ…………











1階に降りると、ナオトさんがシチューを温めてくれた。


ゲイのリックは今日も柔らかい笑顔。




「大丈夫ですか?金丸さん。まぁ今夜はゆっくり飲みましょう。」


ゆうべ何か食べたいものありますか?と聞かれ、俺の1番の好物、スキヤキと答えたんだけど、今夜スキヤキパーティーをしようということになった。






大好きな大好きなスキヤキ。

特別な日のメニュー。

それをこのトロントで食べられるとは。







ところで、ゆうべナオトさんから聞いたけど、矢口真里が浮気して離婚したそうですね。


旦那さんが仕事から帰ってきたら、自宅で他の男とシックスナインしてたらしいですね。


ウケますね。

ミニモニがシックスナイン。


ワイドショーとか興味ないけど、ここまでくると面白いですね。



チクショウ!!
羨ましい!!




























ギターだけ持って街に出かけた。

連日の快晴から、久しぶりに雨が降っている。

薄暗い空の中、トラムに乗りこむ。
3ドル。







まず今日やるべきこと。

旅行代理店に行き、アメリカ出国用の航空券を買う。


それからシェルターに寝袋が見つかったか確認に行く。


時間があれば路上。



ナオトさんたちには20時に帰ると言っている。


泥酔して寝過ぎて、時間はすでに13時すぎ。



頭がボーッとする………

うー、気持ち悪い………












雨に濡れながら歩いてナオトさんが教えてくれた旅行代理店へ。


手数料いくらくらいかかるんだろう?

クレジットカードがあればこんな手間も省けるし、代理店に払う手数料も削減できるのになぁ。


入国前から出国のチケットがいる、だなんてそんなこと日本を出る前は全然知らなかった。





やって来たのはフライトセンターという結構大手の旅行代理店。

そこで狙っている9千円の航空券の予約…………





したいのに…………






その航空会社のチケットは取り扱ってないそう。


なんだよ、もう………

ピピって予約フォームに入力するだけじゃねぇのかよ………




仕方ない。

他の代理店を探すか。












その前に、先にシェルターに行ってみた。


寝袋、たぶん見つかってないだろうな。

盗んだやつはきっとここの入居者ではないはず。

ここにいる人たちはみんないい人たちだ。


週末に飯だけ食いに来てるやつらがいるんだけど、きっとあいつらだろう。






大切な寝袋。


自分で買ったものならまだ踏ん切りつくけど、あれは人からもったもの。

どうにかして取り戻したい。









シェルターに着いてスタッフの人に聞いてみた。



が、しかし首を横に振るだけ。


やっぱりな…………


無理か………


食堂に行き、スティーブにも聞いてみた。



「フミ、ゆうべ3階のやつが青い寝袋を使ってたぞ。あれは見た感じお前の寝袋だった。確かめるんだ。18時にベッドルームが開くからそれまで待っときな。」




でた。

ボケ。

使ってやがった。


よし、このまま張り込みしてベッドで寝袋使ってるところにパワーゲイザーを食らわす。



反撃してきたらギースの当て身で投げ殺す。




賑やかな食堂の中、殺意を隠しながら端っこに座って時間が18時になるのを待つ。


みんな晩ご飯の時間で、美味しそうにご飯を食べている。


俺も食べていいんだけど、今夜はナオトさんたちとスキヤキをしようということになっているので、空腹を我慢。


みんな美味しそうにハンバーグを食べている。


くそー………


絶対とっ捕まえてやる。










晩ご飯の時間が終わり、とうとうベッドルームが開いた。


ダッシュで3階へ。



photo:01




オラァ!!

俺が一生懸命縫った、ていうかミユキさんも縫ってくれた大事な寝袋を使ってヌクヌク寝ているビチグソ野郎はどこだ!!!





ハンターの目でベッドルームの中を調べて回る。


なんだなんだ?と見てくるおっさんたち。



が、まだ18時になったばかりで、ほとんどの人が食堂でテレビを見てるのでベッドは空いたまま。



チクショウ。

みんなが寝る時間にならないとわからない。








食堂に降りてみんなを見渡すが、カードゲームやってたりチェスやってたり、誰が犯人かわからない。


大人しくみんながベッドルームに向かうのを待つ。















時間は20時を過ぎてしまった。


ナオトさんたちに20時には帰るからと言ってるのに………


電話番号を知らないから遅くなるとも言えず、早くみんなが寝るのを待ち続ける。







その後も待ち続け、時間はついに21時半を回ってしまった。


オッさんたちの消灯時間は22時。


まだかなりの人数が食堂でだべっている。



もうダメだ。
もう待てない。


ナオトさんたちがスキヤキを用意して待ちくたびれてるはずだ。






また明日来るか?

いや、明日にはトロントを出る。

今日しか取り返すチャンスはない。



どうする…………




と悩んでるところにスティーブがやってきた。


「ヘイ、フミ。ベッドに犯人が来ている。来るんだ。」





きた!!!!!



スティーブと一緒に受付へ。

ことの次第を説明するスティーブ。


スタッフも着いて行くと言う。



「フミ、気持ちはわかるがファイトはしてはいけないぞ。ちゃんと説明して取り返せばいい。」



photo:02



ドキドキしながら3階のベッドの中を歩く。



ぎゃ、逆上して襲いかかってきたらどうしよう………


そ、そのときはギースの当て身投げを……………









そして、犯人のベッドに着いた。



ベッドで横になってるおじさん。


いきなり3人の男がベッドを囲んだので、なんだ?とビックリしている。


スタッフの兄さんが説明する。




「おーおー!!そうかい!!どうぞどうぞ!!いくらでも見てくれて構わないよ!!これが君のかどうかしっかり見なよ!!」




おじさんは、こいつは面白いといった感じで起き上がって、自分のロッカーの中から寝袋を引っ張り出した。






青い寝袋。







でもそれは一目で俺の物ではないとわかった。









違った…………








「どうだい?!これが君の寝袋かい?!そうだよなぁ、これは俺のだからなぁ。でも無くなったってのは残念なことだ。明日どこどこって所に行くといい。もしかしたら寝袋が手に入るかもしれない。」





冤罪をかけられたおじさん。
怒ってもいい所なのに、俺のために寝袋を手に入れる方法を丁寧に教えてくれた。


疑った俺に対して。




「すまない。こんな盗難って本当に珍しいケースなんだ。」


そう謝ってくれるスタッフの兄さん。



時間が遅くなったことでスティーブを責めはしない。


スティーブは俺の寝袋が青いってことしか知らない。

それでも俺のために探してくれていたんだ。





元はといえば洗濯中に目を離した俺がいけなかっただけのこと。

それなのにすべて盗ったやつのせいにするなんてまだまだ修業が足りないんだよな。






もう諦めがついた。



誰かがあの寝袋で、これから暖かい夜を過ごせるんだ。


俺は毎日使った。

たくさん使った。

もう元はとった。


破れて一生懸命縫ったのも、ここまで頑張ってくれた寝袋への最後の感謝だったということ。


そして1週間お世話になったこのシェルターへの寄付と思おう。




グッバイ、寝袋。


早苗さん、ごめんなさい!!

そしてありがとう!!

あれがあったから1年間、旅できたよ!!














気分はまだ曇っているが、シェルターの皆さんに挨拶。


「トロントでまた泊まるとこなくて野宿するんだったらここに来ればいいから。」



掃除くらいしたいところだったけど、今は時間がない。

みんなに頭を下げて、急いでシェルターを飛び出した。

走ってトラムに飛び乗る。





もう22時をすぎている。

2時間以上も待たされて、俺がナオトさんたちにパワーゲイザー食らわされてしまう。


せっかくスキヤキ作ってくれたのに…………








ダッシュで家に帰ると、てぃちゃんが待っててくれてた。


「あああああ!!金丸さん、大丈夫だっだがぁ?!心配しだはんでぇ。ナオトさん、金丸さんのこと探しにいっでもだんだぁ。」




マジか………




家の外で待っていたら、しばらくしてナオトさんが帰ってきた。


めっちゃ笑顔で。


「いや、何かあったのかと思ってシェルターに向かってました。」


「さ!!早ぐ入っでスキヤキ食べるべさ!!」



可愛いてぃちゃん。


男気溢れまくりのナオトさん。


お爺さんゲイのリック。



最高のメンバーだ、この家。






そして、そんなメンバーで囲んだスキヤキの味は…………











photo:03




もう言うことなし。




これからの1年分の元気もらったよ。









さらにもう1人のルームメイトのカナコちゃんも一緒にスキヤキを食べた。


カナコちゃんも可愛い。


身長がミニモニなので、もはや矢口真里にしか見えなくて、もはやシックスナインしてるところしか想像でき…………




うそ!!カナコちゃん!!嘘!!

そんな目で見てたんじゃないから!!




シックスナインってやったことないです。




良いことと、悪いことが綺麗に同時にやってくる。

そんなもんかな。



スキヤキ最高でした!!!









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